金曜日の放課後。学校の非常階段で乱れた制服姿の隼人と理佐《りさ》が立ったまま行為に及んでいた。

『声出すなよ。バレたらまずい』
「ムリぃー……」

理佐は階段の手すりを必死で掴んだ。理佐が履いていた黒いレースのショーツがルーズソックスの足元にひっかかっている。

 女と遊ぶのは楽でいい。それは本気にならなくてもいいから。それなりに相手をして受け流していれば傷付かない。

「隼人……好き」
『俺も好きだよ』

 感情のない言葉を吐き捨て、目の前の女をめちゃくちゃに壊す。自分自身もめちゃくちゃに壊して行き着く先は快楽の闇。

何も考えずに快楽だけに溺れていたい。それが逃げだってことはわかっている。でも今の自分には女と遊んで快楽に逃げ込む以外に自分を保つ方法を見つけられない──。

「今週の日曜日会える?」

 シャツのボタンを半分だけ留めた理佐が隼人に抱きついた。湿り気のある風が情事の余韻の残る火照った身体にまとわりつく。
この風は雨の匂いを含む風だ。夜には雨が降るかもしれない。

『悪い。日曜はムリ』
「えー。他の女とデート?」
『違うって。友達が留学するからそいつの送別会』

 理佐の機嫌をとるように額に口付けする。妖艶に微笑んだ理佐と何度もキスをして、隼人は理佐の半分だけボタンの留まる胸元に潜り込んだ。

 この非常階段とグラウンドまではかなり距離があるのに、はるか遠くから聞こえる野球部のバッドの音と掛け声がやけに耳に残って離れない。

忘却か逃避か。どうしようもなく暗い闇から這い上がれないまま、6月3日が迫っていた。