支度を終えて、隼人は菜摘をバイクの後ろに乗せて自宅を出発した。行き先は姉が指定した東京郊外にあるアウトレットのショッピングモール。
ショッピングモールに到着して店内を見て回る隼人と菜摘。

『姉貴、なんでこっち帰って来たんだ? いつもは土日でも帰って来ねぇしゴールデンウィークもこっち来なかったじゃん』
「なんとなくホームシックかな。久しぶりにお母さんのご飯食べたくなったの!」

 菜摘はこれと言って何を買うでもなく、ウインドウショッピングを楽しんでいたが、あっちへこっちへ連れ回されて隼人はかなりくたびれていた。

これが自由人な姉を持つ弟の宿命だ。
モール内のカフェで二人は一息つく。この季節のテラス席は初夏の爽やかな風が気持ちいい。

「さっきなんで帰って来たのか聞いたよね。隼人が心配だったからでもあるんだよ」
『俺が心配?』
「サッカー辞めたんでしょ?」
『……うん』

アイスコーヒーで喉を潤して頭上の青空を見上げる。絵の具で描いたような鮮やかな青い空と白い雲のコントラストが綺麗だ。

「サッカーバカの隼人がサッカー辞めたらどうなっちゃうんだろうって心配になって様子見に来たの」
『見ての通り腑抜けた野郎になりました』

自嘲気味に笑う隼人を見て菜摘は眉をひそめて隼人の頭をポンポンと叩いた。

「私は腑抜けになってもいいと思う。何もかもが嫌になって現実逃避する……そういう時期も必要だよ。でもね、どれだけ腑抜けになっても警察のお世話になるようなことだけはしないようにね?」
『わかってるよ。俺だってそこまでバカじゃねぇしガキでもないから』
「お父さんとお母さん、翼にもあまり心配かけないでね。翼なんてね、兄貴がサッカー辞めちゃったぁって私に泣きながら電話してきたのよ」
『まじかよ』

その話は初耳だ。翼も隼人がサッカーを辞めたことが相当ショックだったらしい。

「翼はあんたに憧れてるのよ。隼人はさぁ、子供の頃から勉強もスポーツも器用にこなすしね。ヤンチャな悪ガキだけど根は優しくて面倒見もいいし。でもあんたって一本木な性格だからどうしても不器用になっちゃうんだよねぇ。頭いいのにバカなんだから」

褒められているのか複雑な気持ちだった。けれど姉なりに励ましてくれている気持ちは伝わった。