1999年5月21日(Fri)

 女子生徒達の黄色い歓声がグラウンドに響き渡った。
放課後の校庭ではサッカー部の部員達が練習をしているが、グラウンドの周囲に集まる女子生徒達の視線はただ一点に集中している。

「隼人くん今日もかっこいい!」

彼女達は頬を赤くして溜息混じりにその人物だけを見つめていた。

「やれやれ。今日もとりまき連中がやってるねぇ」

 靴を履いて昇降口を出た田中真理がグラウンドの周囲に溜まる女子の群れを指差して呆れ気味に言った。加藤麻衣子はスニーカーの靴ひもを結んで立ち上がる。

「でも麻衣子が羨ましいよ。あんなかっこいい人が幼なじみだなんて」
「ぜーんぜん、羨ましいことないよ。アイツのせいで今まで私がどれだけ迷惑こうむってきたかっ!」
「毎年バレンタインは大変だもんね。“隼人くんに渡してくださいー”って麻衣子がチョコ山盛り渡されて」

麻衣子と真理はグラウンドに目を向けた。サッカー部の練習の日はいつもこうだ。いつもある男を目当てに女子がグラウンドに群がっている。

「チョコだけじゃないよ。手紙に誕生日プレゼントに電話番号書いたメモ……渡すなら直接本人に渡せばいいのに。私は隼人との連絡係じゃなーい!」
「うわぁ、荒ぶってますねぇお嬢さん。あ、休憩みたいだよ」

グラウンドの横を通って校門に向かっていた真理が足を止めた。合図の笛の音が鳴り、サッカー部の部員達がグラウンド脇に集まってくる。

 麻衣子は無意識に彼の姿を捜していた。彼はフェンスにもたれてペットボトルの水を飲みながらコーチと話をしている。

彼を見ているのは麻衣子だけではない。真理も、グラウンドの周りに集まる女子生徒全員が彼に注目していた。

コーチと話を終えた彼がこちらを見た。緑色のフェンス越しに目が合った瞬間、麻衣子はまずいと思って反射的に目をそらした。……が、遅かった。

『おい、麻衣子ー』

彼が麻衣子の名を大声で呼び、こっちへ来いと手招きしている。当然のように女子生徒達の視線も麻衣子に集中した。

「ほら、学校の王子様からのお呼びだしだよ」
「隼人のどこが王子様なの? どちらかと言えば悪の帝王でしょ」

 真理が笑って麻衣子の脇腹をつつく。笑い事じゃないと憤慨しつつ、麻衣子は仕方なく彼のもとに向かった。