『兄貴、亮くん、お疲れー』

 試合を終えた二人と翼と朝陽がハイタッチを交わした。隼人と親しげにハイタッチをする朝陽はすっかり隼人のファンになっていた。
隼人は財布から千円札を抜いて翼に渡す。

『翼、これで俺と亮の飲み物買ってきて。お前とそいつの分も買ってきていいから』
『オッケー! 朝陽、行こうぜ』
『うん』

 翼と朝陽が公園を出ていく。コートに残った隼人と亮はベンチに腰掛けた。

『隼人ってまじに何者? うちのバスケ部の連中相手にするより手強いんだけど』
『本気でいくって言ったのはお前だぞ』

ベンチの背にもたれて空を仰ぐ。空は茜色に色付き始め、汗の滲む額に当たる風が気持ちいい。

『……亮』
『んー?』
『サンキュー』
『……何が?』

言葉少なげなやりとりをして二人で笑い合う。

『いろいろ。少し気が晴れた。やっぱりスポーツで汗流すのも悪くないよな』

 亮が何かを言いたそうにしていることは気配でわかる。彼が口を開きかけたと同時にフェンスの扉が開いた。

「あの……」

青い花柄のワンピースを着たポニーテールの少女がコートの入り口に立っていた。少女は朝陽と同じくらいの年齢に見える。

『どうしたの?』

亮が少女に話しかける。少女はキョロキョロとコートを見回していた。

「えっと……ここに小学生の男の子がいませんでした? 私よりちょっと背が高くて、バスケをしてて……」
『それって朝陽のこと?』
「はい! そうです!」
『朝陽ならジュース買いに行ってるだけだからすぐに戻ってくるよ』
「ありがとうございます」

 亮が状況を教えてやると少女は安堵して亮に頭を下げた。彼女はそのまま二人とは少し離れたベンチに座り、朝陽を待っている。

『可愛いな。朝陽の彼女かな?』
『さぁな』

少女に無関心な隼人はその存在を気にもせず、すぐに彼女から目をそらした。