試合開始から3分が過ぎた。ひとつのボールを追いかけて二人の男が翼と朝陽の目の前を颯爽と横切る。

『ヤバイ。兄貴と亮くんの1on1なんて鳥肌ものだ』
『翼くんの兄ちゃんもバスケやってるの?』

 翼の興奮を理解できていない朝陽は首を傾げてコートを走る隼人と亮を目で追っていた。

『ううん。兄貴はバスケじゃなくてサッカー……をやってた』
『じゃあ翼くんの兄ちゃん負けちゃうんじゃない? 相手はあの渡辺さんだよ』
『それはどうかな。ま、見てみなよ。退屈な試合にはならないから』

 内心の興奮を押さえ付けようとしても翼の口元はにやけていた。こんなに楽しい試合は部活でもそうそう観られない。中学の地区大会の時よりもワクワクしている。

亮からボールを奪った隼人がシュートを放った時、翼はガッツポーズをし、朝陽は歓声を上げた。真剣勝負のピリッとした空気の中でハイレベルな試合が展開する。

『すげぇ……! 翼くんの兄ちゃんすげぇよ!』

 試合を食い入るように見つめる朝陽。気づけばコートの周りを囲うフェンス越しには公園で遊んでいた子供達やその保護者が集まり、通行人も立ち止まって隼人達の試合の観客になっていた。
どちらかがシュートを決めるたびに声援と拍手が沸く。

『兄貴はさぁ、見た目あんなチャラチャラしてるけどなんでも出来るんだ。大抵のスポーツは余裕でこなす。あ、またやりやがった。クソッ! なんであんなに絵になるんだよ。やっぱりスポーツしてる時の兄貴は最高にかっこいいな』

 隼人がダンクシュートを決めた。隼人と亮の力はほぼ互角。隼人はダンクやスリーポイントのシュートを軽々と決め、カットインもスムーズ。
バスケ部の亮と互角に渡り合える隼人の能力は素人とは思えない。亮が手加減しないはずだ。

『悔しいけど毎日バスケやってる俺でさえ、1on1で一度も兄貴に勝てたことないんだ』
『翼くんも勝てないって……翼くんの兄ちゃん凄い人なんだね』

 ルールとして決めた得点の最後の一点を隼人が入れた。周囲に集まる観客がフェンス越しに隼人と亮にねぎらいの言葉をかけている。
ちょっとしたバスケ対決のつもりがなかなか本格的な試合になっていた。