翌日、5月5日。

『お前、最近荒れてるな』

 漫画を片手にベッドに寝そべる渡辺亮が隼人に向けて呟いた。隼人は携帯電話から顔を上げる。

『そうか?』
『前は煙草なんか吸わなかったのに。隼人が変わったって麻衣子も心配してる』

隼人の左手にある煙草を見た亮は顔をしかめた。隼人は平然と左手を口元に持っていく。

『別に……荒れてもねぇし変わってもねぇよ』
『未成年が人の家で煙草吸うこと自体が荒れてる証拠だろ。お前が帰った後に母さん達にバレないように証拠隠滅するのけっこう大変なんだぞ』

 それまで澄ましていた隼人が顔色を変えた。亮の言うことはもっともだ。人の家で未成年が煙草を吸っているこの状況は荒れてるとしか言いようがない。

 彼は吸殻を飲み終えたジュースの缶に押し込んだ。

『そうだな。悪かった』
『責めてるわけじゃねぇよ。隼人の気持ちもわかってるつもりだ。自分が絶対に負けたくないもので負けたら誰だって自暴自棄になる』
『自暴自棄か……』

今の自分にはまさに自暴自棄の言葉がお似合いだ。それなりに平和でそれなりに楽しい日常の中に刺激的で欠けてはならない存在があったことを思い起こさせる。