隼人に別れを告げられた沙耶香は泣きそうな顔をしている。彼女の表情に麻衣子も少しだけ胸が締め付けられた。

「……なんで?」
『お前と付き合うことで麻衣子と話せなくなるのが嫌だから』
「私よりこの女が大事なの?」
『どっちが大事とかじゃない。これは俺の生き方の問題。沙耶香からすれば麻衣子の存在に悩まされて嫌なのもわかる。でもそれが許せないなら俺から離れろよ。麻衣子は俺の幼なじみだ。麻衣子と話せなくなるくらいなら俺はお前と別れる』

沙耶香が隼人の頬を打つ。痛々しい音が夕暮れの裏庭に響き渡った。

「それって私よりこの女が大事って言ってるようなものじゃない! 隼人のバカ!」

 沙耶香は泣き叫びながら走り去った。嵐が去った後の静寂が残された三人を包む。

「追いかけなくていいの?」
『いいんだよ。しかし痛ってぇなぁ』

憮然として頬をさする隼人の肩に笑顔の渡辺が腕を回した。

『いやぁ修羅場だったなぁ。女は怖いねぇ』
『亮、お前なんでそんなに楽しそうなんだよ』
『隼人がパシーンと平手打ちされるシーンを見れたから? 全国の女子の皆さーん、こんなろくでなしはどうぞどうぞ煮るなり焼くなり叩くなりしちゃってくださーい』
『アホ』

隼人と渡辺のこんなに楽しそうな顔を麻衣子は久々に見た気がする。

『麻衣子。ごめんな』

擦りむいて赤くなる麻衣子の膝を見た隼人が呟いた。珍しく怒られた犬のようにしょんぼりとしている隼人がおかしくて、麻衣子と渡辺は笑い出した。

「いいよ。隼人の女の揉め事に巻き込まれるのは慣れてるから。でもひとつお願い聞いてくれる?」
『なんだよ?』
「三人で一緒に帰ろっ」

麻衣子のお願い事に隼人と渡辺は苦笑いして頷いた。