「本当のことを言いなさいよ! 隼人とは本当に幼なじみってだけなの?」

 沙耶香がさらに麻衣子に詰め寄る。
麻衣子の気持ちを正直に話したとしても誤魔化したとしても、これはどう言った場合でも火に油を注ぐ真似にしかならない。

「隼人と私は幼なじみで、山崎さんが心配するようなことはないよ」
「私が言いたいのは、もう隼人に近付かないでほしいの! 隼人は私の彼氏なのよ。あんたには渡さないから!」

 沙耶香が両手で麻衣子を突き飛ばした。麻衣子は地面に手をつき、擦りむいた膝の痛みに顔をしかめる。

小学生の頃からこんな場面は何度もあった。隼人のことが好きな女子に妬まれて意地悪されたこともある。

(なんでよ……いつもいつもなんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないの?)

こうなったのはすべて隼人のせいだ。

(あの女たらしインテリ悪の帝王の隼人のせいだ! 隼人のバカ野郎ー!)

 地面を踏む足音が近付いてくる。顔を伏せる麻衣子の目の前に男物のスニーカーが見えた。

『ほんとアホトロだよなぁ。こんな簡単に突き飛ばされて。お前はそんなにか弱い女だったか?』

憎たらしく悪態をつくその声に安堵してしまう。顔を上げると隼人と渡辺がこちらを見下ろしていた。

隼人が身をかがめて麻衣子の身体を支えて立ち上がらせる。彼はそのまま盾になるように麻衣子と沙耶香の間に立った。隼人の広い背中が頼もしく感じる。

『沙耶香、別れよう』

 隼人の言葉に沙耶香だけでなく麻衣子も驚き、麻衣子は隣にいる渡辺と目を合わせた。渡辺は平然として口元を上げている。

渡辺はこの展開を予想していたのかもしれない。彼は麻衣子の頭をポンポンと撫でた。
その仕草が“隼人に任せておけば大丈夫”と言っている気がした。
それは麻衣子と渡辺が隼人に感じている絶対的な信頼感。