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 沙耶香を抱き締めていた隼人は彼女を離してしばし無言で教室の扉を見つめていた。

(廊下にいた奴、麻衣子に似てたな)

もしもあれが麻衣子だったとして、彼女はどうしてこんな時間に教室に来たのだろう?

「隼人? どうしたの?」
『……なんでもない』

 沙耶香にはそう答えつつ、隼人は教卓の上の座席表で麻衣子の座席を確認した。

麻衣子の席は廊下から三列目の、前から四番目だ。
隼人は麻衣子の席の前に立ち、椅子を引いて机の中身を確認した。人の机の中を漁ることに躊躇いはあるが、ここは幼なじみ特権で許してもらおう。

「何してるの?」
『探し物』
「探し物って……そこ、加藤さんの席だよ?」
『わかってる』

隼人はすぐに目当ての物を見つけた。机の中には理科の宿題として出された元素記号のプリントが入っている。

『沙耶香のクラスって明日理科ある?』
「あるけど……」

元素記号のプリントは隼人のクラスでは今日が提出日だった。麻衣子のクラスでは明日が提出日のようだ。

『帰るぞ』
「……うん?」

 隼人は麻衣子の宿題のプリントをカバンにしまい、沙耶香を促して教室を出た。

(麻衣子はもう帰っちまったかな……)


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