山崎沙耶香以外にも隼人にはたくさんの女友達がいる。彼女達の中では麻衣子は霞んでしまう。

(隼人の隣にずっといたのは私なのに)

今の隼人の隣には山崎沙耶香がいて、彼女は麻衣子の知らない隼人を知っている。
そのことがたまらなく悔しくて、寂しい。

『……夜、暇?』

唐突に隼人が尋ねた。

「今日の?」
『そう』
「暇だけど……」
『じゃあみんなで花火やろーぜ。姉貴もこっち帰って来てるし翼や亮と雄兄《ゆうにぃ》も寧々ちゃんも誘ってさ』

花火の誘いに麻衣子の顔が笑顔になる。

 隼人には横浜の医大に通う四歳年上の姉の菜摘《なつみ》と、三歳年下の小学六年の弟の翼がいる。

隼人が雄兄と呼ぶ人は渡辺亮の二歳年上の兄の渡辺 雄大《ゆうだい》。雄大は隼人や麻衣子にとっても兄のような存在だ。
小学五年の寧々《ねね》は麻衣子の四歳下の妹。

 久しぶりに加藤家、木村家、渡辺家の子供たちが集まる。昔は頻繁にみんなで遊んでいたのが、主に企画発案をしていた年長組の菜摘と雄大の大学や高校進学を機にその頻度は減っていた。

麻衣子達幼なじみ三人も中学進学と共に三人で出掛ける機会はなくなっていた。

「みんなで遊ぶの久しぶりだね。楽しみ!」
『じぃちゃんがでっかいスイカ送ってきたからそれも食べるか。ちょうど母さんが麻衣子達も呼んで食べさせようって言ってたとこだから』
「スイカ! 食べる食べる!」

 笑顔で宿題に取り組む麻衣子を見て隼人が穏やかに微笑していたことを麻衣子は知らない。
今夜の隼人との花火は隼人の“幼なじみ”の麻衣子の特権。

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花火とスイカと、好きな人。