翌日、17日水曜日。今日の放課後は悠真との勉強会だ。

 帰りのHRが終わると、晴のクラスに悠真と一緒に隼人も入ってきた。隼人には昼休みに昨日の勉強会の中断を詫びてある。

『晴、大丈夫か? 疲れた顔してるけど』

隼人は勉強会を中断した急用について詮索することもなく、今も晴の体調を気遣ってくれる。

『平気平気! 慣れない勉強して頭パンクしてるだけだから!』

 悠真も昨日の勉強会中断の件を知っているのに何も言わない。彼らのそんなところが有り難かった。
これは黒龍の問題だ。隼人にも悠真にも、余計な心配はかけたくない。

『じゃ、俺は先に帰るな。今日撮影入ってんだ』
『おお! 撮影頑張れよ! 雑誌出たら買うからっ!』
『お前も数学頑張れよー』

 隼人はメンズファッション誌soul streetの読者モデルをしている。高校生や大学生に人気のsoul streetは晴も愛読の一冊だ。

教室を出る隼人に手を振り、晴は気合いを入れ直す。

『ヨッシャ。悠真やるぜ! どっからでもかかってこいっ』
『……晴』

 気合いのガッツポーズをする晴とは精神的な温度差が20℃はあるのではないかと思うような、落ち着いた悠真の声が晴の名を呼んだ。

『なんだよ。相変わらずテンション低いなぁ』
『何かあるなら言えよ。お前、普段は鬱陶しいくらいに騒がしいけどひとりで抱え込む癖があるからな』

 隼人にも悠真にも本当は全て見抜かれている。見抜いてはいても、彼らは晴が言い出すまでは知らないフリをしてくれる。

『……サンキュー。でもごめん。今はまだ言えねぇ』
『言いたくないなら言わなくていい。俺も隼人も無理には聞かない。追試は明後日だ。今日は徹底的にしごくぞ』

にこりと穏やかに微笑む悠真の背後に黒い翼が見えるのはきっと晴の気のせい……?

『お手柔らかにお願いします……』

 追試まであと2日。今の晴にはまず追試をクリアすることが最優先の目標だった。