『おう、待たせたな。これ飲め』

 車に戻ってきた龍牙がペットボトルの炭酸飲料を晴と蒼汰に渡した。晴と蒼汰は龍牙に礼を言い、二人同時にペットボトルの蓋を開ける。

二人共かなり喉が渇いていたのか、半分の量までイッキ飲みだ。冷たい炭酸が喉に染みて気持ちいい。
そんな晴達を龍牙が温かな眼差しで見守っている。

『さっきの刑事は龍牙さんの知り合いですか?』

 晴は気になっていたことを龍牙に尋ねてみた。運転席で携帯電話を操作していた龍牙は顔だけを後方に向ける。

『知り合いっつーか、アイツは黒龍初代No.2のアキ。お前らも名前だけは知ってるだろ?』
『……ああ! 思い出した。あの刑事の顔どこかで見たと思ったんだけど、倉庫の壁に貼ってある写真だ。高校時代の龍牙さんとアキさんの……』

 ようやく思い出した。黒龍が溜まり場にしている倉庫の壁に貼られた初代黒龍メンバーの写真。あの写真に写るアキと先ほど見た刑事の顔が一致した。

『元暴走族が刑事って凄いっすね。そっか……あの人がアキさんだったのか』

蒼汰は自分の無実を信じてくれた刑事がアキと知って嬉しそうだ。龍牙が車のエンジンをつけ、冷房の冷気が車内に流れてきた。

『それを言うなら俺もだけどな』
『そうですよ! 黒龍初代リーダーが弁護士で初代No.2が刑事って凄すぎますって!』

興奮する晴と蒼汰を乗せた車が新宿西警察署の駐車場を滑らかに出発する。

『蒼汰。アキも俺も、晴や洸もお前がクスリをやってないと信じてる。他の連中が信じなくても仲間に信じてもらえるだけで充分だろ。だからそんなにヘコむな』
『……はい……ありがとうございます……』

龍牙の言葉に蒼汰は涙ぐみ鼻をすする。晴も鼻の奥がツンとした。

『晴は明日も学校だよな。家まで送ってやるから、帰ったらちゃんと勉強して遅刻せずに学校行けよー』

 ミラー越しに龍牙が晴に微笑んだ。年齢は10歳しか違わないのに龍牙は晴達にとって父親のような存在だ。
彼が居てくれて本当によかった。

 龍牙に家まで送り届けられた晴は隼人に渡された英語のノートで今日のノルマをこなし、眠る頃には日付が変わっていた。