英語の問題を解きながら隼人の顔を盗み見る。聞きたいことがあるのになかなか聞けないもどかしさ。
それは“あの子”のこと。

『またわからないとこあった?』

 麻衣子の視線に気づいた隼人が顔を上げる。今日こそは思いきって聞いてみようと決意して麻衣子はシャープペンシルを置いた。

「宿題のことじゃなくて……あのね、山崎さんとは仲良くしてるの?」

いざ口にするとこれだけの言葉を言うのが精一杯だ。隼人は顔色を変えずにまた問題集に目を移した。

『沙耶香のことが気になるのか?』

(沙耶香……彼女だから呼び捨てにするんだ)

 山崎沙耶香。二年生の終わりから隼人と交際を始めた隼人の彼女。隼人に片想いしている大勢の女の子を差し置いて隼人の彼女の地位を掴みとったサッカー部のマネージャーだ。

「気になるって言うかどうしてるかなって思って」
『麻衣子は沙耶香と同じクラスだろ』
「そうだけど……」

 そう、よりによって麻衣子は山崎沙耶香と三年生で同じクラスになってしまった。好きな人の彼女と同じクラスにするなんて神様は意地悪だ。

「山崎さんはこの部屋に入ったことあるの?」
『あるよ』

短い返答。隼人は麻衣子の顔も見ずにすらすらと問題集にシャープペンシルを走らせている。

(幼なじみの私がこんなこと聞くのも変だよね)