バスルームの鏡の前で美月は自分の姿を見つめる。
肌に刻まれた赤い刻印。鎖骨や胸、腹部や太ももの内側……佐藤につけられたキスマークをひとつひとつ辿って、彼女は溜息をついた。
彼はどんな気持ちで私を抱いたの?
どうして拒絶しなかったの?
どうして受け入れたの?
どうして優しくするの?
昨夜、初めて男を知った美月の身体は三度目の行為となってもまだ慣れない。彼女は下腹部に感じるかすかな痛みに顔をしかめた。
よく泡立てたボディソープの泡を腹部に滑らせ、そのまま彼を受け入れた下半身に触れる。
トロリとした体液と泡が絡み合う指を見下ろして、これが夢ではないと再確認した。
夢であればいいのに夢ではない。夢であってほしくないのに夢であればいいと望む。
今日もまたあの香りを感じた。彼の体温に包まれるたびにあの香りにも包まれて絶望の波が押し寄せる。
──“何が善で何が悪かは最終的には自分で決める”──
──“たとえそれがどんなに受け入れ難い真実でも受け入れていくしかない”──
隼人の言葉が浮かぶ。何が善? 何が悪?
最後に残ったものが真実……
どんな理由でも人を殺してはいけない
身体の泡を洗い流してシャワーの蛇口を閉めた。ノズルから漏れた水滴がポタポタ落ちて小さな水溜まりを作る。
美月の頬が濡れていたのはシャワーを浴びたから? それとも……。
バスルームを出るとすでに着替えを済ませた佐藤がベッドに腰掛けていた。
「シャワー浴びないの?」
『このままでいい』
「……あの後なのに?」
『美月にマーキングされたままがいいんだよ』
「マーキングって、私は猫じゃありませんー!」
煙草を吸う佐藤の傍らに美月は寄り添い、彼は美月の少し濡れた髪の毛に指を絡ませた。美月の髪を絡めていた佐藤の指が彼女の首筋から鎖骨を這い、水色のワンピースに隠れた白い肌に触れた。
彼女の綺麗な肌に生々しく残る赤い罪の刻印を指でなぞる。こんなものを刻みつけて、何をやっているんだろうと己を蔑んだ。
『俺、犯罪者だな』
「えっ?」
『三十四にもなる男が十七歳の女の子と……親御さんに申し訳ない』
鎖骨のキスマークをなぞる佐藤の手に美月は自分の手を重ねた。
「別に……いいと思うよ。年の差恋愛だってアリでしょ?」
『年の差恋愛か』
佐藤は煙草の煙をけむたそうにして目を細めた。ここではないどこか遠くを見つめる彼の視線が美月の不安を煽る。
彼は煙草を灰皿に捨てて美月から離れた。ベッドを降りた佐藤は美月に背を向ける。
『東京に帰って俺とのことを警察や誰かに聞かれても俺とお前は何の関係もないとそう言うんだ。もちろんご両親にもだ』
長身の彼が今どんな顔をしているのか、美月からは見えない。
鼓動が速くなっている。どんどん、どんどん、速くなる。
『俺達が会えるのも今日までだ』
はぁ、と息を漏らして美月はうつむいた。唇を噛んでこれから言う言葉を心の中で繰り返す。
「……あなたが……殺したのね?」
美月はついに封印していた言葉を口にした。
肌に刻まれた赤い刻印。鎖骨や胸、腹部や太ももの内側……佐藤につけられたキスマークをひとつひとつ辿って、彼女は溜息をついた。
彼はどんな気持ちで私を抱いたの?
どうして拒絶しなかったの?
どうして受け入れたの?
どうして優しくするの?
昨夜、初めて男を知った美月の身体は三度目の行為となってもまだ慣れない。彼女は下腹部に感じるかすかな痛みに顔をしかめた。
よく泡立てたボディソープの泡を腹部に滑らせ、そのまま彼を受け入れた下半身に触れる。
トロリとした体液と泡が絡み合う指を見下ろして、これが夢ではないと再確認した。
夢であればいいのに夢ではない。夢であってほしくないのに夢であればいいと望む。
今日もまたあの香りを感じた。彼の体温に包まれるたびにあの香りにも包まれて絶望の波が押し寄せる。
──“何が善で何が悪かは最終的には自分で決める”──
──“たとえそれがどんなに受け入れ難い真実でも受け入れていくしかない”──
隼人の言葉が浮かぶ。何が善? 何が悪?
最後に残ったものが真実……
どんな理由でも人を殺してはいけない
身体の泡を洗い流してシャワーの蛇口を閉めた。ノズルから漏れた水滴がポタポタ落ちて小さな水溜まりを作る。
美月の頬が濡れていたのはシャワーを浴びたから? それとも……。
バスルームを出るとすでに着替えを済ませた佐藤がベッドに腰掛けていた。
「シャワー浴びないの?」
『このままでいい』
「……あの後なのに?」
『美月にマーキングされたままがいいんだよ』
「マーキングって、私は猫じゃありませんー!」
煙草を吸う佐藤の傍らに美月は寄り添い、彼は美月の少し濡れた髪の毛に指を絡ませた。美月の髪を絡めていた佐藤の指が彼女の首筋から鎖骨を這い、水色のワンピースに隠れた白い肌に触れた。
彼女の綺麗な肌に生々しく残る赤い罪の刻印を指でなぞる。こんなものを刻みつけて、何をやっているんだろうと己を蔑んだ。
『俺、犯罪者だな』
「えっ?」
『三十四にもなる男が十七歳の女の子と……親御さんに申し訳ない』
鎖骨のキスマークをなぞる佐藤の手に美月は自分の手を重ねた。
「別に……いいと思うよ。年の差恋愛だってアリでしょ?」
『年の差恋愛か』
佐藤は煙草の煙をけむたそうにして目を細めた。ここではないどこか遠くを見つめる彼の視線が美月の不安を煽る。
彼は煙草を灰皿に捨てて美月から離れた。ベッドを降りた佐藤は美月に背を向ける。
『東京に帰って俺とのことを警察や誰かに聞かれても俺とお前は何の関係もないとそう言うんだ。もちろんご両親にもだ』
長身の彼が今どんな顔をしているのか、美月からは見えない。
鼓動が速くなっている。どんどん、どんどん、速くなる。
『俺達が会えるのも今日までだ』
はぁ、と息を漏らして美月はうつむいた。唇を噛んでこれから言う言葉を心の中で繰り返す。
「……あなたが……殺したのね?」
美月はついに封印していた言葉を口にした。