8月7日(Mon)

 しとしとと小雨の降る朝だった。

上野によって広間に集められた人々の中にひとりだけ姿を現さない人物がいた。
その人物はもうここに来ることができない。何故ならその人は自分の意思で動くことができないのだから。

 沖田オーナーの妻、冴子が小説家、間宮誠治の死体を発見したのは今から一時間前の午前7時。

朝食は自室で摂ることにしている間宮の今朝の食事を冴子はいつものように間宮が宿泊する部屋、101号室に運んだ。

しかし何度ノックをしても応答がない。ドアノブに手をかけると部屋の鍵は開いていてノブは抵抗なく回った。
開けた扉の隙間から部屋を覗くと室内にいたのは首にネクタイを巻き付けて倒れている間宮誠治の亡骸だった。

 間宮の死体発見時、上野はまだ眠りの淵にいた。沖田オーナーからの内線電話で事の次第を知った上野は伸びていた髭を剃るのも後回しに部屋を飛び出した。

 上野の所見では間宮の死亡推定時刻は昨夜22時から深夜2時。
死因は絞殺、間宮を死に至らしめた凶器のネクタイは福山編集長によると間宮の私物のようだ。

「どうして先生が……」

 幼い頃から間宮と親交のあった沢井あかりは声をあげて泣いていた。あかりに寄り添う美月も涙ぐんでいる。

 これで被害者は三人。誰もが憂鬱になる雨の朝の出来事だった。