広間の全員集合での身のない事情聴取は終わり、場は解散となった。

 木村隼人はひとりで中庭をふらついている。庭には夏の日差しをたっぷり浴びたひまわりが咲き乱れていた。

絵の具のような水色の空、青々と茂る木々から聞こえる蝉時雨、夏の風にひまわりが揺れる。自然の情景はこんなにも色鮮やかで美しいのに、ここに集う者達の心の色は灰色がかってくすんでいた。

 この夏が終われば卒論を仕上げて卒業を待つだけ。就職の内定はとっくに出ている。
卒業すれば社会人。今のような気楽な生活も終わる──。

「木村先輩」

 物思いに耽《ふけ》る隼人の後ろ姿に女が声をかけた。沢井あかりだ。
小道を歩いてくるあかりを隼人は一瞥した。

『沢井か。お前も散歩?』
「そんなところです。気分転換したくて」

あかりは隼人を通り越して庭の中心のひまわり畑の前で立ち止まった。

「大変なことになっちゃいましたね。討論会も中止になって残念です」
『死人が出たんだ。中止は仕方ねぇよ。だがミステリー研究会の合宿って言ってもリアルな殺人事件には遭遇したくないな』
「そうですね……。先輩はどう思いますか?」

彼女の黒目がちな瞳がこちらを見ている。里奈とは違い、化粧っ気のないあかりの童顔は下手をすれば高校生の美月と同学年と言われても不思議ではない。

『どうって?』
「竹本くんと松下さんを殺した犯人について先輩の意見を聞かせて欲しいなぁって」

あかりはやけに真剣な顔つきだ。

『俺は探偵でも刑事でもない。意見って言ってもそんなの考えてもどうしようもないだろ』
「でも先輩は考えていますよね? 考えずにはいられない……木村先輩はそういう人です」

あかりの指摘に隼人は言葉を詰まらせた。

 確かに考えていた。何故、竹本と松下は殺されたのか。誰が、どうして、殺したのか。その答えを。