上野が場を仕切り直すようにひとつ咳払いをする。

『佐々木さんのお気持ちも無理ない。今はそっとしておきましょう。誰でもこんな状況になれば気が狂ってしまいます。不甲斐ながら刑事の私がいるにも関わらず、第二の犯行を阻止できませんでした。申し訳ありません』

上野はゆっくり頭を下げ、そして顔を上げた。

『……話を続けます。松下さんの部屋を調べていてひとつ気になる点がありました。彼のパソコンを調べたところ、松下さんが撮影した写真のデータの一部がなくなっているようなんです』
『ほう、写真のデータが?』

この話題に真っ先に関心を示したのは間宮だ。

『はい。一昨日の8月4日のデータだけがごっそりと。3日、つまりあなた方がこちらに宿泊する前日と5日のデータは残っていたんです。しかし間の4日だけが写真の記録がありません。5日のデータが入っているのなら4日を取り込み忘れたわけでもなさそうです。カメラ本体のデータも4日の分だけが消えていました』
『消えた写真のデータか。ますますミステリーのお約束じゃないか。私の小説として考えるのなら、4日に松下くんが撮影した写真の中には犯人にとって都合の悪いものが写っていたのだろう。そしてそれが殺害動機となった。犯人は写真のデータを消すために松下くんを殺したんだ』

間宮の見解は上野の考えと一致していた。

 消えた8月4日の写真には何が写っていたのか。
松下淳司はその写真に何を見たのか。彼が死の間際に見た顔は……誰だったのか。