午後8時40分[一階東・書斎]
ペンション一階の西側はオーナー夫妻と美月の部屋、間宮誠治が宿泊するテラス付きの客室、中庭を挟んだ東側一階には書斎と呼ばれる大きな部屋とラウンジがある。
ラウンジには大型テレビやビリヤード台の設備があり、設置された冷蔵庫にあるドリンクも自由に飲むことができる。
書斎には背の高い本棚が並び、机と椅子、ソファーも置かれていた。
「まったく! 啓徳大の人ってみんなあんな感じなの?」
隼人と竹本との出来事で憤慨が溜まる一方の美月は書斎のソファーのクッションを怒りに任せて拳で何度も叩く。クッションに顔を埋めて叫んでみても隼人と竹本から受けた不愉快な思いは消えない。
『あっ……ここって入ってもいいのかな?』
書斎の入り口から声が聞こえて美月はハッとして顔を上げた。並木出版の佐藤瞬がこちらを見ている。
「もちろんです。どうぞ! この部屋はお客様のために用意したお部屋ですので」
『よかった。……これは凄いな。ほとんどが推理小説だよね? 国内だけじゃなく海外作品も多く揃えてある』
佐藤は書斎の壁一面を覆う本棚に並ぶ推理小説の数に圧倒された。
「子供用の絵本も少しだけありますけど、小説はたぶん推理小説しかないんじゃないかな。オーナーに言えばここにある本をお部屋に持ち帰って読むことも出来ますよ」
美月は腕を伸ばして本棚の一部を指し示した。
「ここは海外作品でホームズの棚、こっちはクリスティ、フィリップマーロウなんかもあります。向こう側は日本の作品で、古いものなら江戸川乱歩や横溝正史、間宮先生の作品も全部揃えています。間宮先生のご本は先生のサイン付きですよ」
美月の説明のひとつひとつに佐藤は頷く。
『オーナーは推理小説が好きなんだね』
「はい。叔父の影響で私もミステリー好きになっちゃって。女子高生なのにラブストーリーじゃなくて悪趣味なミステリーばかり読んでるって友達に言われます」
口を尖らせる美月を佐藤は優しい眼差しで見つめた。その眼差しがなんだか気恥ずかしくて、美月は次の話題を探す。
「えっと……お名前……佐藤さんでしたよね?」
夕食で彼が着席していた席の名札を思い出す。確か佐藤と書かれていた。
『うん。並木出版で編集の仕事をしている佐藤瞬です。君は美月ちゃんだったよね?』
「はい。浅丘美月です」
『高校何年生?』
「二年生です」
『若いなぁ』
美月と佐藤は並ぶ本棚の間を歩きながら会話を続ける。
「佐藤さんはおいくつですか?」
『三十三歳だよ。秋には三十四になる』
「佐藤さんだってまだまだ若いですよ」
『いやー、やっぱりああやって大学生に囲まれるとね。自分はもう歳だなと思うよ。こういうことを言うからますます爺くさくなるんだよな』
「爺くさくって……ふふっ」
佐藤の言い方が面白くて美月は笑った。
ペンション一階の西側はオーナー夫妻と美月の部屋、間宮誠治が宿泊するテラス付きの客室、中庭を挟んだ東側一階には書斎と呼ばれる大きな部屋とラウンジがある。
ラウンジには大型テレビやビリヤード台の設備があり、設置された冷蔵庫にあるドリンクも自由に飲むことができる。
書斎には背の高い本棚が並び、机と椅子、ソファーも置かれていた。
「まったく! 啓徳大の人ってみんなあんな感じなの?」
隼人と竹本との出来事で憤慨が溜まる一方の美月は書斎のソファーのクッションを怒りに任せて拳で何度も叩く。クッションに顔を埋めて叫んでみても隼人と竹本から受けた不愉快な思いは消えない。
『あっ……ここって入ってもいいのかな?』
書斎の入り口から声が聞こえて美月はハッとして顔を上げた。並木出版の佐藤瞬がこちらを見ている。
「もちろんです。どうぞ! この部屋はお客様のために用意したお部屋ですので」
『よかった。……これは凄いな。ほとんどが推理小説だよね? 国内だけじゃなく海外作品も多く揃えてある』
佐藤は書斎の壁一面を覆う本棚に並ぶ推理小説の数に圧倒された。
「子供用の絵本も少しだけありますけど、小説はたぶん推理小説しかないんじゃないかな。オーナーに言えばここにある本をお部屋に持ち帰って読むことも出来ますよ」
美月は腕を伸ばして本棚の一部を指し示した。
「ここは海外作品でホームズの棚、こっちはクリスティ、フィリップマーロウなんかもあります。向こう側は日本の作品で、古いものなら江戸川乱歩や横溝正史、間宮先生の作品も全部揃えています。間宮先生のご本は先生のサイン付きですよ」
美月の説明のひとつひとつに佐藤は頷く。
『オーナーは推理小説が好きなんだね』
「はい。叔父の影響で私もミステリー好きになっちゃって。女子高生なのにラブストーリーじゃなくて悪趣味なミステリーばかり読んでるって友達に言われます」
口を尖らせる美月を佐藤は優しい眼差しで見つめた。その眼差しがなんだか気恥ずかしくて、美月は次の話題を探す。
「えっと……お名前……佐藤さんでしたよね?」
夕食で彼が着席していた席の名札を思い出す。確か佐藤と書かれていた。
『うん。並木出版で編集の仕事をしている佐藤瞬です。君は美月ちゃんだったよね?』
「はい。浅丘美月です」
『高校何年生?』
「二年生です」
『若いなぁ』
美月と佐藤は並ぶ本棚の間を歩きながら会話を続ける。
「佐藤さんはおいくつですか?」
『三十三歳だよ。秋には三十四になる』
「佐藤さんだってまだまだ若いですよ」
『いやー、やっぱりああやって大学生に囲まれるとね。自分はもう歳だなと思うよ。こういうことを言うからますます爺くさくなるんだよな』
「爺くさくって……ふふっ」
佐藤の言い方が面白くて美月は笑った。