真実を告白して無言で夕日を眺める彼の横顔を私も黙って見つめた。
空の色は次第に赤から紫へ。もうすぐ日が沈む。

『なんでだろうな。さっきもそうだったけど俺達付き合っていたこともないのに結恵といるとすごく安心する』
「どうして私に打ち明けてくれたの?」
『……結恵には嘘つきたくなかったんだ』

 彼の手が私の髪を撫でる。しかしすぐにハッとして彼は手を引っ込めた。

『悪い。人殺しの手に触られたくないよな』
「そんなことない! そんなことないよ!」

私は精一杯の否定を込めて彼にしがみついた。

『俺……中学の頃から結恵のことずっと好きだった。でも友達の関係壊したくなくて言えなかった』
「もう……。言うのが遅いよ。私だって中学の時からずっと好きだったんだよ」

涙目で彼を見上げる私の頬に彼が触れる。

『ほんとバカみたいだな。両想いだったのに俺達どうしてもっと早く気持ちを伝えられなかったんだろう。結恵とだったら俺は人を殺すこともなかったのかな』

その言葉に溢れる涙を止めることができず彼の腕の中で泣いた。私を両手で包んだ彼の手が背中や頭を撫でてくれる。

『結恵とずっとこのまま一緒にいたい。二人でどこか俺達のことを誰も知らない場所へ行かないか?』

 私も彼とずっと一緒にいたい。でも私には……今の私が大切にしなくてはいけないものがある。

「あなたのことは今でも好きだよ。だけど私……」
『結婚してるんだろ?』

彼は私の左手を握る。私の左手の薬指に嵌まる最愛の人とのお揃いの指輪を彼の指がなぞった。

「それだけじゃない。……妊娠してるの」

彼は目を見開いて驚きを露にしていた。結婚していることは指輪を見れば明らかでも、妊娠は予想外だったみたいだ。彼の視線が私の下腹部に向けられる。
私は妊娠初期でまだ膨らみの目立たないお腹に手を添えた。

「妊娠がわかったばかりで、とっても小さな命だよ。あなたと一緒にいたいと思う。でもこの子を守れるのは私しかいないから……」

彼が私のお腹に優しく触れた。割れ物を扱うように恐る恐る、でもとても優しく、彼の大きな手が私のお腹に触れる。

『もしかしたら俺は自分の子供を殺してしまったのかもしれない。誰の子供でも関係ないんだ。俺は……二人の命を奪ってしまった』

彼が声を押し殺して泣いている。涙を流す彼を抱き締めて私も泣いた。

 太陽から月に変わるわずかな瞬間の紫色の空が私達を妖しくも優しい色で覆い隠してくれた。