私と彼は数年振りの再会を果たした。彼は私の中学の同級生。最後に彼と会ったのは高校生の時だった。

『時間あるならどこか行かない?』

 彼の提案で私は彼の車に乗り込んだ。その時にほんの少しだけ変な感覚を感じたけど彼に会えた喜びでその感覚はすぐに消えてしまった。

昔と変わらない笑い方。変わらない?
……変わった? どこかぎこちない彼の笑顔にまた違和感を覚える。

 中学時代の思い出話や学校を卒業してからのお互いのこと、同級生の誰が結婚した、誰が起業した……当たり障りのない会話を繰り返して車を走らせ、1時間ほど経った。
見えてきた景色に私は歓喜した。

「海!」
『ごめん。俺が海見たくて……でもこんな時期じゃ寒いよな』
「冬の海も好きだよ」

 私達は車を降りて海岸沿いを並んで歩く。この時期の海は人もまばらでどこか物悲しい。

海風が冷たく吹き、波の音が聞こえた。
風に身をすくめる私の肩に彼が羽織っていた上着がそっとかけられる。

『寒いだろ? 着てろよ』
「ありがとう。でもそっちは平気?」
『俺は大丈夫』

そう言った彼だったがすぐに大きなくしゃみをして鼻をさすった。

「やっぱり着ていて」
『じゃあこうしよう』

彼は照れながら上着に片腕を通すと、私を抱き寄せて腕を通してない方の上着の中に私を入れた。大きな彼の上着に私はすっぽりと包まれる。

「確かにこれなら二人とも暖かいね」
『不思議だな。俺達付き合ってるわけじゃないのに』
「傍目にはきっと恋人に見えてるよ?」
『そうだな』

 二人して顔を見合わせて笑った。本当に不思議。10年近く会っていなくて恋人だったこともないのに、こうして二人でいることが自然に思う。

『このまま二人でどこか遠くに行かないか?』
「遠くって?」
『どこか……ずっと二人だけで居られる場所に……』

見つめた彼の横顔は暗く重たい。哀しい陰がかかっているような気がする。

「遠くに行きたい理由でもあるの?」

私が聞いても彼は答えずに寒空の下の海を見つめていた。暖かい太陽の光が海を照らし、海は太陽の光を反射してきらきらと輝いている。

『しばらくここで待っていて欲しい』

 突然彼が口を開く。私が頷くと彼は私の肩に自分の上着をかけて来た道を小走りに戻って行った。だんだんと小さくなる彼の後ろ姿に心細さを感じつつ、石段に腰掛けて彼を待つことにした。

胸騒ぎがする。何かとんでもない事実が目の前に現れる予感に怖くて不安になった。

「きっと……大丈夫よね」

 お腹に手を当てると気分が落ち着いた。気づけば太陽は少しずつ高度を下げ、空は綺麗なオレンジ色に染まりつつあった。