(なんなの、この気持ち。心が痛い)
美月は泣きながら渋谷の街を走っていた。隼人が走る美月を追いかけ追い付き、彼女の腕を捕まえる。
立ち止まった二人は息切れして肩を上下させていた。
『なんで逃げる?』
「高校生には興味ないんでしょ。私のこと好きだって言ったのは嘘なの?」
隼人は先ほどの失言を悔やんだ。まさか仲間がナンパした高校生が美月だとは思わなかった。
『嘘じゃない。俺は高校生には興味ないけど美月ちゃんのことは本気で好きだ。信じられない?』
隼人の真剣な眼差しにまた胸が苦しくなる。ドキドキして涙が止まらない。
美月の溢れる涙を隼人の指が拭った。
『なんでこんなに泣いてるんだよ』
「わかんないよ! どうしてこんなに泣けるのかも、どうしてこんなにドキドキしてるのかも自分の気持ちがわからないよ! だけど高校生には興味ないって言われた時、すごく悲しくなって……」
美月の心の叫びを聞き終える前に隼人は美月を抱き締めていた。
「好きになっちゃったのかな」
『うん、もういい。美月ちゃんの気持ちはわかったから。何も言わなくていいよ』
「言わなくていいって……言わせてよ」
拗ねた口調の美月の愛らしさに隼人は微笑した。
『じゃあ言ってください。どうぞ?』
「……好き……です」
赤い顔の美月が隼人を見上げるとそこには同じく赤い顔をした隼人がいた。
『あー。ヤバい。心臓がヤバい。めちゃくちゃドキドキしてる』
「女たらしの木村さんでも照れる時あるんだ」
『うるせぇ。これは美月限定』
「あ、呼び捨て……!」
『いいだろ。今から俺の彼女なんだから』
ぎゅっと抱き締められる感覚が心地いい。安心するぬくもり、安心する香り。
『とりあえず店に戻るか』
抱き合っていた身体を離して隼人が右手を差し出した。
『ん。また逃げられると困るからな』
「もう逃げないもん」
美月は隼人が差し出した右手に左手を絡ませた。隼人が微笑み、美月も微笑み返す。
『あー……。亮に絶対からかわれそう』
「私も、ニヤニヤしてる比奈の顔が浮かぶ……」
二人の手はしっかりと繋がれ、歩き出した。その一歩は未来に向けてのはじめの一歩。
それは夢の終わり
そして……現実の始まり。
第五章 END
→エピローグに続く