ハンバーガーショップを出た美月と比奈は渋谷の街を歩く。今日は残暑が厳しく蒸し暑いが、夏の制服が着れるのも衣替えまでのあと1ヶ月だと思うと名残惜しい。
「あった。ここだよ。愛梨がオススメしてたカラオケ! フリータイム500円ドリンク飲み放題っ」
比奈が通りに並ぶビルを指差した。行き付けのカラオケ店は改装工事で休業中のため、今日は友人に教えられたカラオケ店を訪れることにした。
大きな赤い文字でカラオケと綴られた四階建てビルのガラス扉を比奈が押し開けた。二人が店内に入ると涼しい冷房の風が少し汗ばんだ額に当たった。
どんな店でもそうだが、初めて訪れる場所には期待と好奇心が詰まっている。
一階の受付フロアにはレジカウンターの他にダーツやビリヤードの設備もあり、数人の男が集まっていた。
ソファーに座って受付の順番待ちをする美月が何気なくダーツスペースを見た時だ。美月の視線がある一点で留まる。
『君たち高校生だよね』
茶髪の男が美月の比奈に話しかけるも、美月はその男を見ることなくじっとダーツスペースを見ている。
ナンパされて戸惑う比奈にも美月は気付かない。
『隼人ー。こっち来いよ。可愛い高校生いるぞ。お前なら一発で落とせるだろ』
美月達をナンパした男はダーツスペースにいる男に向けてはっきりとその名前を呼んだ。
“隼人”と。
『悪い。高校生には興味ねぇから』
木村隼人はこちらを見ずに仲間とダーツに興じていた。
高鳴っていた心臓が苦しくなった。美月の中で何かが崩れていく。
『あれ? もしかして……美月ちゃん?』
カラオケ店のスタッフエプロンをつけた渡辺亮がフロアの美月に気が付いた。渡辺の発した名前に隼人はようやく振り返り、こちらを見る美月と目が合った。
沈黙の数秒後、美月が入り口に向けて走り出す。
『美月ちゃん! 待って!』
隼人は持っていたダーツの矢を投げ捨て、美月を追いかけて店を飛び出した。店に残されたのは困惑する比奈と置き去りにされた美月の学生カバン、そして状況を察した渡辺。
『あーあ。隼人にしては大失態。でもあの様子だと初めての失恋にはなりそうもないかも』
彼は隼人が投げ捨てたダーツの矢を拾う。拾った矢を的に向けて投げた。
渡辺の手を離れた矢は見事に的の中央に命中した。
「あった。ここだよ。愛梨がオススメしてたカラオケ! フリータイム500円ドリンク飲み放題っ」
比奈が通りに並ぶビルを指差した。行き付けのカラオケ店は改装工事で休業中のため、今日は友人に教えられたカラオケ店を訪れることにした。
大きな赤い文字でカラオケと綴られた四階建てビルのガラス扉を比奈が押し開けた。二人が店内に入ると涼しい冷房の風が少し汗ばんだ額に当たった。
どんな店でもそうだが、初めて訪れる場所には期待と好奇心が詰まっている。
一階の受付フロアにはレジカウンターの他にダーツやビリヤードの設備もあり、数人の男が集まっていた。
ソファーに座って受付の順番待ちをする美月が何気なくダーツスペースを見た時だ。美月の視線がある一点で留まる。
『君たち高校生だよね』
茶髪の男が美月の比奈に話しかけるも、美月はその男を見ることなくじっとダーツスペースを見ている。
ナンパされて戸惑う比奈にも美月は気付かない。
『隼人ー。こっち来いよ。可愛い高校生いるぞ。お前なら一発で落とせるだろ』
美月達をナンパした男はダーツスペースにいる男に向けてはっきりとその名前を呼んだ。
“隼人”と。
『悪い。高校生には興味ねぇから』
木村隼人はこちらを見ずに仲間とダーツに興じていた。
高鳴っていた心臓が苦しくなった。美月の中で何かが崩れていく。
『あれ? もしかして……美月ちゃん?』
カラオケ店のスタッフエプロンをつけた渡辺亮がフロアの美月に気が付いた。渡辺の発した名前に隼人はようやく振り返り、こちらを見る美月と目が合った。
沈黙の数秒後、美月が入り口に向けて走り出す。
『美月ちゃん! 待って!』
隼人は持っていたダーツの矢を投げ捨て、美月を追いかけて店を飛び出した。店に残されたのは困惑する比奈と置き去りにされた美月の学生カバン、そして状況を察した渡辺。
『あーあ。隼人にしては大失態。でもあの様子だと初めての失恋にはなりそうもないかも』
彼は隼人が投げ捨てたダーツの矢を拾う。拾った矢を的に向けて投げた。
渡辺の手を離れた矢は見事に的の中央に命中した。