この写真を撮った時には彼はすでに殺人犯だった。あの人はどんな気持ちで一緒に写真に写ったのか、今はもう聞きたくても聞けない。
「写真消せない?」
「うん。まだ写真も……佐藤さんから貰った香水もとってある」
「だけど佐藤さんとの恋愛にはリアリティがなかったんだね」
「そうなの。何かあれは夢の中の出来事なんじゃないかって、そんな感じなんだよね。でもこうやって写真も電話番号もアドレスも残ってて彼がくれた香水も持ってて……。だからあれは夢じゃない現実だったって思うのに、佐藤さんは本当に実在したのかなって考えちゃったり。変なの」
画像フォルダを閉じてピンク色の携帯電話をテーブルに置いた。
佐藤瞬の携帯番号と、この写真を佐藤の携帯に送った時に一度しか利用していない彼のメールアドレスは、まだ美月の携帯のアドレス帳に残っている。
その電話番号もメールアドレスももう繋がらない。
夢のようで確かにあれは現実だった。
「恋愛ってリアリティがないとダメなんだよ。夢のような恋愛よりも現実味のある恋愛に傾くのは当然かも」
「リアリティかぁ。比奈は恋してるの? 中学の時も比奈から恋愛の話って聞いたことないし、高校入っても好きな人の話聞かないけど」
美月は携帯電話につけた比奈とお揃いのビーズのストラップを弄びながら尋ねた。比奈は目を丸くして大袈裟に笑う。
「私は理想が高いのかな。高校生の男の子って興味持てないもん」
「じゃあ理想は年上の人?」
「そうだね。付き合うなら年上がいいな。ねぇ美月。白昼夢って知ってる?」
「はくちゅうむ?」
親友から聞き慣れない言葉を聞かされて首を傾げる。美月は比奈が見せてくれた携帯電話の辞書画面を見た。
【白昼夢……目覚めている状態で見る現実で起きた非現実的な体験、真昼に夢を見ているような非現実的な空想。白日夢、デイドリームとも呼ばれる】
「起きているのに夢を見ているような状態ってこと?」
「そう。美月が経験した佐藤さんとのことって何かこの白昼夢っぽいなぁって。感覚が白昼夢に似てない?」
「うん……白昼夢……そうかも。佐藤さんとの恋は夢の中にいるようなふわふわしていて、ずっと夢を見ているみたいだった」
夢は起きたら忘れるもの。彼が過去になりつつあることに本当はもう気付いていた。
忘れたわけじゃない、ただ消えていった。
身体につけた彼の香水が消えていくように
少しずつ、少しずつ。
あの夢の一夜から遠ざかるほどに……
彼女はまだこの夢の余韻に浸っていたかっただけなのかもしれない。
白昼夢、美月はその言葉を心の中で反芻した。
白昼夢、それは夢と現実の狭間。
「写真消せない?」
「うん。まだ写真も……佐藤さんから貰った香水もとってある」
「だけど佐藤さんとの恋愛にはリアリティがなかったんだね」
「そうなの。何かあれは夢の中の出来事なんじゃないかって、そんな感じなんだよね。でもこうやって写真も電話番号もアドレスも残ってて彼がくれた香水も持ってて……。だからあれは夢じゃない現実だったって思うのに、佐藤さんは本当に実在したのかなって考えちゃったり。変なの」
画像フォルダを閉じてピンク色の携帯電話をテーブルに置いた。
佐藤瞬の携帯番号と、この写真を佐藤の携帯に送った時に一度しか利用していない彼のメールアドレスは、まだ美月の携帯のアドレス帳に残っている。
その電話番号もメールアドレスももう繋がらない。
夢のようで確かにあれは現実だった。
「恋愛ってリアリティがないとダメなんだよ。夢のような恋愛よりも現実味のある恋愛に傾くのは当然かも」
「リアリティかぁ。比奈は恋してるの? 中学の時も比奈から恋愛の話って聞いたことないし、高校入っても好きな人の話聞かないけど」
美月は携帯電話につけた比奈とお揃いのビーズのストラップを弄びながら尋ねた。比奈は目を丸くして大袈裟に笑う。
「私は理想が高いのかな。高校生の男の子って興味持てないもん」
「じゃあ理想は年上の人?」
「そうだね。付き合うなら年上がいいな。ねぇ美月。白昼夢って知ってる?」
「はくちゅうむ?」
親友から聞き慣れない言葉を聞かされて首を傾げる。美月は比奈が見せてくれた携帯電話の辞書画面を見た。
【白昼夢……目覚めている状態で見る現実で起きた非現実的な体験、真昼に夢を見ているような非現実的な空想。白日夢、デイドリームとも呼ばれる】
「起きているのに夢を見ているような状態ってこと?」
「そう。美月が経験した佐藤さんとのことって何かこの白昼夢っぽいなぁって。感覚が白昼夢に似てない?」
「うん……白昼夢……そうかも。佐藤さんとの恋は夢の中にいるようなふわふわしていて、ずっと夢を見ているみたいだった」
夢は起きたら忘れるもの。彼が過去になりつつあることに本当はもう気付いていた。
忘れたわけじゃない、ただ消えていった。
身体につけた彼の香水が消えていくように
少しずつ、少しずつ。
あの夢の一夜から遠ざかるほどに……
彼女はまだこの夢の余韻に浸っていたかっただけなのかもしれない。
白昼夢、美月はその言葉を心の中で反芻した。
白昼夢、それは夢と現実の狭間。