東京都新宿区にキャンパスを構える私立啓徳大学の構内は夏期休暇の帰省シーズンも相まって閑散としていた。3号館の第四講義室にも人の気配はなく、今ここにいるのは木村隼人と佐々木里奈の二人だけ。
『ごめん』
隼人は里奈に謝罪の言葉を述べる。里奈の顔が泣き顔に歪んだ。
「どうして私じゃないの? 隼人は遊びだったかもしれないけど私は本気で隼人が好きだったんだよ! 他に沢山女がいたっていつかは私だけを見てくれるって思ってたのに……酷いよ」
隼人は何も言わない。彼のその態度が里奈の怒りを煽った。
「あんな子……まだ子どもじゃない。なんで私が高校生に隼人を盗られなくちゃいけないの? それに殺人犯と恋愛するような……」
『里奈、それ以上は止めろ。美月ちゃんは何も悪くない。あの事件で一番傷付いているのはあの子なんだぞ』
講義室に冷ややかな空気が流れる。隼人が美月を庇うことが里奈には許せなかった。流れ出る涙を拭うこともせずに里奈は隼人を睨み付ける。
「最低だよ……! もう……大嫌いっ!」
怒りが込められた里奈の平手が隼人の頬を打つ。里奈は講義室を飛び出し、ひとりになった隼人は溜息をついて机に腰掛けた。
最低、大嫌い、酷い……別れ話を始めてから何度言われただろう?
散々女を弄んでおいて自業自得と言われればそれまでだが。
泣きながらも、隼人を責める行いをしなかったあずさが稀だったのかもしれない。
今回の別れ話はいつもとは違っていた。おそらく里奈も、別れた他の女達も隼人が自分に飽きて捨てていくだけならば泣きはしても怒りはしなかったはずだ。
隼人がただひとりの女のために、たったひとりの女を守るために下した決断だったから彼女達は怒り、恨みの目を隼人に向けた。
“隼人のたったひとりの女”になれなかった悔しさと共に。
里奈で最後。これで遊びで付き合っていた女達とは全員別れた。携帯電話に残る遊び相手の女達の連絡先も、すべて削除した。
(ここまで清算して美月ちゃんに振られたら笑い者だな)
『確実に振られる確率の方が高いだろうけど……しかし痛てぇな』
誰にも聞かれない独り言を吐き、彼は里奈に叩かれた頬をさすった。
『ごめん』
隼人は里奈に謝罪の言葉を述べる。里奈の顔が泣き顔に歪んだ。
「どうして私じゃないの? 隼人は遊びだったかもしれないけど私は本気で隼人が好きだったんだよ! 他に沢山女がいたっていつかは私だけを見てくれるって思ってたのに……酷いよ」
隼人は何も言わない。彼のその態度が里奈の怒りを煽った。
「あんな子……まだ子どもじゃない。なんで私が高校生に隼人を盗られなくちゃいけないの? それに殺人犯と恋愛するような……」
『里奈、それ以上は止めろ。美月ちゃんは何も悪くない。あの事件で一番傷付いているのはあの子なんだぞ』
講義室に冷ややかな空気が流れる。隼人が美月を庇うことが里奈には許せなかった。流れ出る涙を拭うこともせずに里奈は隼人を睨み付ける。
「最低だよ……! もう……大嫌いっ!」
怒りが込められた里奈の平手が隼人の頬を打つ。里奈は講義室を飛び出し、ひとりになった隼人は溜息をついて机に腰掛けた。
最低、大嫌い、酷い……別れ話を始めてから何度言われただろう?
散々女を弄んでおいて自業自得と言われればそれまでだが。
泣きながらも、隼人を責める行いをしなかったあずさが稀だったのかもしれない。
今回の別れ話はいつもとは違っていた。おそらく里奈も、別れた他の女達も隼人が自分に飽きて捨てていくだけならば泣きはしても怒りはしなかったはずだ。
隼人がただひとりの女のために、たったひとりの女を守るために下した決断だったから彼女達は怒り、恨みの目を隼人に向けた。
“隼人のたったひとりの女”になれなかった悔しさと共に。
里奈で最後。これで遊びで付き合っていた女達とは全員別れた。携帯電話に残る遊び相手の女達の連絡先も、すべて削除した。
(ここまで清算して美月ちゃんに振られたら笑い者だな)
『確実に振られる確率の方が高いだろうけど……しかし痛てぇな』
誰にも聞かれない独り言を吐き、彼は里奈に叩かれた頬をさすった。