練習が終わり、帰宅する部員達を見送った隼人と美月は車に乗り込んだ。
駐車場に向かう途中、隼人はしばらく校舎の方向を見ていた。校舎の窓の向こうに知っている人間でも見つけたのか、彼は一瞬、寂しげにその一点を見つめている。
ここは隼人の母校だ。もしかしたら昔の思い出を懐かしんでいるのかもしれないと思い、美月はその時の隼人に声をかけることはしなかった。
『今日は付き合ってくれてありがとう』
「どこに連れて行かれるか不安でしたけど私も楽しかったです」
着替えの時にシャワーを浴びた隼人からは香水の香りがしている。静岡にいた時も彼は今日と同じ香りを漂わせていた。
『ホテルにでも連れ込まれるかと思った?』
「……ちょっとだけ」
隼人が吹き出して笑った。あまりにも彼が大笑いしているので余計にこちらが恥ずかしくなる。
『あーあ。そっち連れて行けばよかった。せっかくお母さん公認だったのに。美月ちゃんも期待していたみたいだし?』
「別に期待していませんっ!」
『ムキになって否定すると益々怪しいな。そうか、じゃあ今度は美月ちゃんのお望み通りホテルに……』
「だから違いますっ!」
赤い頬を膨らませる美月をからかって隼人は愉しんでいる。
『冗談だって。デートの行き先は学校、しかもサッカー部の練習。健全だろ?』
「木村さんに健全って言葉は一番似合わないと思います。って言うか、これってデートなんですか?」
『おお、美月ちゃんもだいぶ俺に遠慮なく言うようになったね。それくらい口が回るなら少しは調子戻ってきたな』
美月はハンドルを操る隼人を盗み見た。
(私をからかってるのもわざと? この人はどうしてこんなに私に優しいの?)
隼人の運転する車が都内を走り抜ける。
『勝手にいなくなるな、か』
彼は美月がサッカーボールを蹴った時の叫びの言葉を呟いた。
『本当にそうだよな。俺も一発殴ってやりたい気分だ』
「……変なんです」
『変って?』
「彼とのこと……確かに現実にあったはずなのにもしかしたらあれは夢だったんじゃないかって思えて、でも夢じゃなくて」
美月は窓の外を見た。夏の午後5時はまだ日が高くて明るい。
彼女は無意識に服の上から胸元を押さえていた。あの恋が夢ではなく現実の出来事だと実感する証拠がここにあった。
駐車場に向かう途中、隼人はしばらく校舎の方向を見ていた。校舎の窓の向こうに知っている人間でも見つけたのか、彼は一瞬、寂しげにその一点を見つめている。
ここは隼人の母校だ。もしかしたら昔の思い出を懐かしんでいるのかもしれないと思い、美月はその時の隼人に声をかけることはしなかった。
『今日は付き合ってくれてありがとう』
「どこに連れて行かれるか不安でしたけど私も楽しかったです」
着替えの時にシャワーを浴びた隼人からは香水の香りがしている。静岡にいた時も彼は今日と同じ香りを漂わせていた。
『ホテルにでも連れ込まれるかと思った?』
「……ちょっとだけ」
隼人が吹き出して笑った。あまりにも彼が大笑いしているので余計にこちらが恥ずかしくなる。
『あーあ。そっち連れて行けばよかった。せっかくお母さん公認だったのに。美月ちゃんも期待していたみたいだし?』
「別に期待していませんっ!」
『ムキになって否定すると益々怪しいな。そうか、じゃあ今度は美月ちゃんのお望み通りホテルに……』
「だから違いますっ!」
赤い頬を膨らませる美月をからかって隼人は愉しんでいる。
『冗談だって。デートの行き先は学校、しかもサッカー部の練習。健全だろ?』
「木村さんに健全って言葉は一番似合わないと思います。って言うか、これってデートなんですか?」
『おお、美月ちゃんもだいぶ俺に遠慮なく言うようになったね。それくらい口が回るなら少しは調子戻ってきたな』
美月はハンドルを操る隼人を盗み見た。
(私をからかってるのもわざと? この人はどうしてこんなに私に優しいの?)
隼人の運転する車が都内を走り抜ける。
『勝手にいなくなるな、か』
彼は美月がサッカーボールを蹴った時の叫びの言葉を呟いた。
『本当にそうだよな。俺も一発殴ってやりたい気分だ』
「……変なんです」
『変って?』
「彼とのこと……確かに現実にあったはずなのにもしかしたらあれは夢だったんじゃないかって思えて、でも夢じゃなくて」
美月は窓の外を見た。夏の午後5時はまだ日が高くて明るい。
彼女は無意識に服の上から胸元を押さえていた。あの恋が夢ではなく現実の出来事だと実感する証拠がここにあった。