暫くすると、飛んでくるようにやってきたナベ。
いつもの白衣を適当に羽織っただけのナベは、佐藤先生の様子を見て一瞬で表情を曇らせた。「急いで処置をする必要がある」と呟くと、脳神経内科の看護師に連絡をしてストレッチャー持ってくるよう指示を出していた。
男数人で車の中から佐藤先生を運び出して、持ってきたストレッチャーに乗せる。そうして向かう先は、病院側の救急だ。
「ナベっ、先生は大丈夫?」
「今はまだ分かんない。未来ちゃんはわかば園に戻ること。明日以降、容体については教えるから」
「ナベっ……」
「……けれど、大丈夫。佐藤さんはそんなにヤワじゃないでしょ」
カラカラと音を立てながら移動していくストレッチャー。その上に乗っている佐藤先生と、隣で走っているナベを見送ると、そっと朱音さんが私の肩を叩いた。そして何も言わず、ただただ遠くなるナベたちを眺めながら「今日のところは、部屋に帰ろう」と小さく呟いたのだった。
その日の夜、私はあまりにも眠れなかった。
意識を無くした佐藤先生の様子があまりにも衝撃で、不安で……怖くて。できればもう二度とその様子は見たくないんだと、素直に思った。
「……とかいう私も、いつそうなるか分からないけどね」
結局、私も佐藤先生と同じ病気なのだから。私自身だって、いつ急に意識が無くなるのかわからない。生と死。私と佐藤先生。色々なことを想像し、勝手にモヤモヤしながら静かに布団の中に潜り込んだ。
「私……いつ悪化するのかな」
先に病気を抱えていた私の方が軽いなんて、やっぱり理解できない。とはいえ、それがまた現実であり避けられない。私も佐藤先生と同じように病気が進行すればいいのに……。そう考えるとやるせない気持ちになってしまう。