「うん、まぁね…」

同期である武人(たけと)の前ではついタメ口で話してしまう。

「あのオーナー女癖悪いって評判だぜ?
大丈夫か?
まぁ、コンシェルジュに手は出さないかもしれないけど。
毎晩女取っ替え引っ替えってウワサ。」

案の定の噂なので、特に驚きもしないが。
しかし、それならそれで、風俗嬢でも呼んで性欲処理すれば良いのでは?と思った。
そして、その時、私は閃いた。

「ありがと、武人!
今度なんか奢るわ!」

「はぁ?」

武人の不思議そうな声を後ろに、私は制服を正してオープンロイヤルスイートに向かった。

ノックすると、中からまたしても返事は無かった。
私はカードキーを差し込む。

天羽オーナーはバルコニーのプールで、プールフロートに乗って優雅に浮かんでいた。
さっきも見たから分かるが、均整の取れた美しい肉体に、長い手足、指先まで綺麗だった。

しかし、その美しさに見惚れる訳にはいかない。
それでは、さっきの二の舞だ。

「天羽オーナー。」

「あぁ、琴宮(ことみや)か。
電話しても出ないから逃げたかと思ったよ。」

えぇ、逃げ出したかったですけどね!

「天羽オーナー、よろしければ夜のお相手も手配する事もできますが?
どのような容姿が良いとかおっしゃっていただければ、ご要望の女性を…」

「おいおいおい、ちょっと待てよ。
俺が女に飢えてるってのか?」

天羽オーナーは薄茶色のサングラスを外して険しい視線を私に向けた。

「………違うのですか?」

「あのなぁ…
悪いけど、俺は女には困ってないんだよ。
アンタに用意してもらうほど、落ちぶれてもない。

ところで、もうプールから上がるから、バスタオル取ってきてくれないか?」

天羽オーナーは言って、平泳ぎしてプールサイドに上がった。

私はバスルームの洗面室からバスタオルを取り、天羽オーナーに持って行った。

「拭いてよ。」

「は?」

「タオルで拭けって言ってるの。」

天羽(あもう)オーナーが言う。

「ですから!
お客様の身体に触れることは出来ないと…!」

やっぱりケダモノだわっ!

「ふぅん、琴宮さ、俺の事平手打ちしたよね?
言っちゃおうかなー?
チーフコンシェルジュに。」

「ふ、ふ、拭けば良いんでしょ!」

バスタオルを彼の胸元に当てた。
瞬間、赤くなるのを止められなかった。
割れた腹筋も、背筋もバスタオルで拭いていく。

「下もだ。」

「え…?
いや、それは…!」

「平手打ち」

私はバスタオルを足元に当てた。

その時、天羽オーナーは私のその手を股間に押し付けた。(水着の上からだが)

「き、き、キャァァァァァァァァ!!!」

私はバスタオルを投げ捨てて、オープンロイヤルスイートからダッシュして逃げた。

後ろから、天羽オーナーの笑い声が聞こえた気がした。