次の日、私はコンシェルジュとして再びオープンロイヤルスイートの担当に戻った。
つまり、天羽オーナーの担当である。

とは言え、この間の藤井さんの謝罪の一件で、天羽オーナーは変わりつつあった。
と、私は思い込んでいた。

私はコンシェルジュルームに着くと、今日の天羽オーナーのスケジュールを確認した。
ちょうどそれが終わった頃に天羽オーナーから着信があり、オープンロイヤルスイートルームに向かった。

部屋に入ると、リビングに天羽オーナーの姿は無かった。
えーと…

寝室のドアを一旦ノックする事にした。

「入…れ…」

元気のない天羽オーナーの声がして、私は寝室に入った。

「天羽オーナー、あと1時間後にはホテルの支配人達との会議があるはずですが…
どうかされましたか?」

「頭が…痛い…んだ…」

天羽オーナーは言う。
顔色はそんなに悪くなさそうだが、確かにキツそうな表情だ。

「えぇ…!?
では、訪問診療…」

「この間…もらった…薬…がある…」

「あ、そうなのですね!
今ミネラルウォーターを持ってきます!」

私はリビングの冷蔵庫に走った。

「琴…みや…」

「はい。」

「起こして…くれない…か?」

「え、えぇ…」

そう言われたので、私は天羽オーナーの肩を右手で抱え込んだ。
お、お、重い…!
必死に起こそうとするが…!

その時天羽オーナーはニヤリと笑った。
身体を素早く反転し、私をベッドに引きずり込むと、上に覆い被さったのだ。

「なっ、なっ、なっ!?」

「引っかかったー!
お前って本当進歩が無いよね?」

天羽オーナーはそう言うと私の耳を甘噛みした。

「きゃあ!
何するんですか?」

「あ・ま・が・み♡
きゃあ、だってー。
可愛いねぇー。」

彼はそう言って、さらに私の腕を押さえつけて、あろう事か私の耳の中にグチュリと舌を差し込んだ。

「い、いやぁぁ!」

「琴宮、お前を俺の女にしてやるよ。」

は?
What?

無理やり襲って、"俺の女にしてやるよ"???

「け、け、結構です!」

「は?
この俺が女にしてやるって…」

私は彼の右手に噛みついた。

「イッテェな!」

「少しは変わったと思った私が馬鹿でした…!
この、ケダモノ…っ!」

私はそう言い捨てて、オープンロイヤルスイートから逃げて行った。

酷い…
私は一生懸命トラウマを無くそうとしたのに…

変わってくれたって…
そう思ったのに…

専用のエレベーターを停止させ、私はハンカチで耳を拭った。

いいえ、これは…
これは、戦いだわ…!

神様の試練よ…!

諦めない。
あの捻じ曲がった性格を叩き直してやるわ!

私も、天羽オーナーと同じで、違った方向に熱意を燃やしたのだった。