私はロイヤルスイートのリビングを見回す。
と言ってもロイヤルスイートにはリビングが2つある。
そして、寝室が3つに、トイレ・バスが2つずつ。

さらに、このロイヤルスイートルームはオープンロイヤルスイートと呼ばれ、造りはリゾート風だ。
その為バルコニーにはプライベートプールが付いており、その脇には簡単なバーが設置されている。
バーテンダーを呼び、プールパーティーも開ける仕組みだ。

私はロイヤルスイートのリビング2つを見て回ったが、人影は無し。
流石にコンシェルジュと言えど、寝室までは見る事はできない。

1分以内に来いと言われて、急いで来たのにこの有様だ。

どうしようか?と戸惑っていた時…

「…アンタが琴宮さん?」

そう呼ぶ声がした。

振り返ると、そこにはバスローブ姿の超イケメンが居た。
髪からは水が滴り、顔は少し上気している。
お風呂後だという事がすぐ分かった。
バスローブは少し着崩れ、綺麗な胸筋が見え隠れする。

私は、しかし、今は仕事モードであり、そんな事くらいで目を逸らす事はしなかった。

「初めまして、コンシェルジュの琴宮(ことみや)でございます。」

ビジネスモードのにこやかな笑顔でそう言った。

「あっそ。
コンシェルジュなら、もちろん俺の要望に応えてくれるよなぁ?」

ニヤリと笑って言う彼。

「はい、もちろんです。
何なりとお申し付けください。」

私のビジネスモードはどんなイケメンでも壊れない。
そう思っていたが…

「髪乾かして。」

「は…?」

え、今何と?
髪乾かして?

「何回も言わせんなよ。
ドライヤーかけてって言ってんの。
アンタ、俺のコンシェルジュなんでしょ?」

「で、で、ですが、お客様…
お客様の身体に触れるような行為は基本的には…」

私は流石に戸惑いを隠せない。

「そんなの俺が良いって言ってんるんだから、問題ないだろ。
このホテルのオーナーの俺がね。」

え…?
今、なんて…?

このホテルのオーナー!?!?

じゃ、じゃ、じゃあ、彼は…
ホテル王の天羽萬里(あもうばんり)様!?

「早く。
俺が風邪引いたら責任取れるの?

1日で5億は稼いでるはずだけど、俺。」

天羽様は言う。

「ド、ド、ドライヤーをお持ちします!」

私は急いでドライヤーをバスルームの洗面室から取ってきた。

彼はすでに長いソファに腰掛けている。

「し、失礼致します。
ドライヤーをお当てしますね。」

私はドライヤーのスイッチを入れ、彼の濡れた髪に触った。
彼の髪の毛は猫っ毛の癖毛のようだ。
癖が目立たないように慎重にドライヤーをかけた。

「琴宮、お前ドライヤー上手いな。」

お褒めの言葉をいただいたが、天羽様の胸筋が見えすぎているのが、どうも気になる。
やはり私も女である。