「天羽オーナー…!」

私は電話でも動揺していた。

「…どうした?琴宮?
何かあったのか?」

天羽オーナーはすぐに異変を察知してそう言った。

「い、いえ、大丈夫で…」

「言えよ。
この間の借りも返して無いんだ、俺は。」

天羽オーナーが優しくそう言った。
初めて聞く、天羽オーナーの穏やかな声だったかもしれない。

「実は…」

私は事情を説明する。

「ティファニーのネックレスの名称と型番を調べてくれ。
製氷店はこっちにあるから、ネックレスを埋め込んで、彫刻まで手配して、冷凍車でそっちに送る。

室内温度の設定はそっちに任せるが、もしも、ネックレスが予定の時間に溶け出さなかった場合に備えて、楽器演奏か歌で時間を引き延ばす手段も準備しておいてくれ。」

天羽オーナーは的確に指示を出した。

「わ、わ、分かりました!」

「琴宮、大丈夫だから、落ち着け。
どんな時もBe Coolに、だ。」

「…はい。」

そして、私はコンシェルジュルームにダッシュして、ネックレスの名称と型番を調べて天羽オーナーにLINEで送った。

それから、バイオリン演奏者の手配も一応しておいた。

そうして、氷のケーキを載せた冷凍車は19時10分のギリギリに到着し、結婚記念サプライズはなんとか上手く行ったのだった。

♦︎

私がクタクタで、私服に着替えて、ホテルから帰ろうとすると、天羽オーナーがリムジンでホテルに戻ってきた。
どうやら、出張は終わったみたいだ。

「サプライズは?」

天羽オーナーが私に尋ねる。

「大丈夫です。
上手くいきました。
全て天羽オーナーのおか…」

「いや、これはこの間の礼だ。
借りを作るのは嫌なんでな。
ちゃんと返したぞ?」

「確かに…
これで貸し借り無し、ですね?」

私は笑顔でそう言った。

「初めて見たな、アンタが笑ってるの…」

天羽オーナーが呟いた。

「え?」

「いや、何でもない。
上がりだろ?
気をつけて帰…
いや、送っていこう…」

そう天羽オーナーが言いかけたその時…!

「琴宮!」

武人(たけと)…!」

背後から、武人が私に声をかけた。

「彼女は俺が送るので、大丈夫ですよ。」

武人は私の前に立ちはだかって天羽オーナーにそう言った。

「って、言ってるけど、どうするんだ?琴宮?
コイツか俺か…」

天羽オーナーが何故か張り合ってそう言った。

「えーと…
でも、天羽オーナーはお疲れでしょうし…
武人もホテルに明日まで残った方がいいんじゃないかしら…?

それに、私1人で帰れますので!」

私は2人に頭を下げ、1人でバスに乗り込んだ。

その後2人がどうなったのかは、知らない。