それから、数日間、天羽オーナーは出張で、私はオープンロイヤルスイートから呼び出される事は無かった。

あれだけわがままセクハラ放題されていたが、いざ居なくなると、なんだか寂しいものだ。

とは言っても、コンシェルジュの仕事はある訳で…
私は、天羽オーナーが出張の間、ロイヤルスイートとスイート以外のホテルのお客様を担当する事になった。

「ありがとう、お姉ちゃん!」

「はい!
また来て下さいね!」

4人連れの家族をお見送りしながら、私は手を振った。

そうそう!
これが私の仕事よね!

そう思って、張り切って仕事に励んだ。

明日は久しぶりの休みだし…
何しようかな?

お家でゴロゴロも捨てがたいけど、美容室とか、買い物にも全然行ってないから〜…

そんな事を思いながら、コンシェルジュルームで休憩を取っていると…

武人(たけと)がコンシェルジュルームに入ってきた。

「おっす。
お疲れ〜。」

武人が言った。

「おっす!
お疲れ様!」

私も機嫌良く答える。

「やっぱり天羽オーナーが居ないと生き生きしてるな。」

「うーん、まぁね。
でも、少し物足りないわよ。
天羽オーナーのわがままに慣れていた所だったから。」

私は笑ってそう言った。

「女は強いねぇ…」

武人。

強くなきゃ生きていけないわよ。
心の中でそう思った。

「あ、そう言えば…
明日の映画のチケット2枚あるんだけど、行かないか?」

「え?
武人、明日休みなの?」

「だから、誘ってるんだろ。
俺の担当客もさっきチェックアウトした所なんだよ。


武人が椅子に座りながら言う。

「何の映画?」

「"獅子は甘く初花を愛でる''ってやつ。
恋愛物かな。」

「あ、見たい!
明日午前中は美容室に行きたいから、午後からでも良い?」

私は尋ねる。

「いいよ。
じゃ、決まりだな。」

♦︎

翌日、私は美容室に行き、髪を整える程度に切ってもらった。

ブローでツヤサラになった髪をたなびかせて、武人との待ち合わせのカフェに向かった。
武人は先に店内に入っていた。

「お待たせ。」

「あぁ、いいよ。」

私はアイスカフェラテを注文し、武人はアイスコーヒーを頼んだ。

「そう言えばさ、この間天羽オーナーとリムジンで出かけてたろ?
どこ行ってたんだ?」

武人が尋ねる。

「うーん、お客様のプライバシーに関わるから、言えないかな。」

「そっか。
こ、こ、琴宮はさ、天羽オーナーの事どう思ってんの?」

「は…?」

思いもよらない質問をされ、私は聞き返した。

「いや、だってさ、ホテル王だし、外見も良いだろ?
身長も俺と同じくらいで…」

武人が言う。

「ないない!
お客様に対して恋愛感情は持たないの!
私のポリシーよ。」

武人も負けず劣らずイケメンだと思うのだが…
お客様にもたまに口説かれてるし…

「そっか!
そうだよな!」

何故か嬉しそうな武人。

後はたわいない話をして、私たちは映画館に向かった。