意識が朦朧とする中、天羽オーナーは案の定私に覆い被さった。

「や、や
やめれくらさい…」

私は呂律も回らなかったが、そう言った。

「やだね。」

紺色の制服のボタンを天羽オーナーはゆっくりと外していく。

「お前が、悪いんだ…
コンシェルジュの癖に…
俺のコンシェルジュの癖に…」

やはり、天羽オーナーは幼少期のコンシェルジュからの仕打ちで傷ついている…!

そう思ったが、私の紺色のベストは脱がされてしまった。
白のブラウスだけになる。

「ひゃめてくらさい…」

天羽オーナーは私の胸を感触を確かめるように触り、妖艶に舌なめずりする。

私は…

「ふじいしゃおりさん!」

あの名前を言った。

ピタリと天羽オーナーの手が止まった。

「今…なん…て…」

「おーなー、ふじいしゃんの…ところに…いっしょにひきましょお…」

朦朧とする意識の中でそう言った。

「あやまって…くだひゃい…って…
むかしゅのこと…」

私は必死に言った。
これしか、天羽オーナーを救う手は無い。

「萎えた…
俺は寝室で寝る…」

そう言って、天羽オーナーは寝室に入って行った。

私はそこで意識を手放した。

♦︎

翌朝、私は床で眠っていたらしい。

背中がバキバキで痛い。

天羽オーナーは…?

「天羽オーナー?」

私は寝室を覗く。

「この、おせっかい女!」

クッションが飛んできた。

「天羽オーナー、藤井沙織(ふじいさおり)さんの住所を調べました。
旦那さんに先立たれ、今は1人静かに暮らしているようです。
行きましょう!
一緒に!

怖いのは分かります!
でも、ここを乗り越えなきゃ…」

私は言う。

「うるせーんだよ!
お前に何が分かる!?」

天羽オーナーは怒鳴る。

「分かりません!
でも、私にだって辛い事はありました!
でも、この仕事がそれを癒してくれたんです!

だから、天羽オーナーにも乗り越えて欲しいんです!」

「お前は…
本当に…
アホだ…な…

俺は、昨日、お前を襲おうとしたんだぜ…?」

天羽オーナーはクッションに顔を埋めてそう言った。

「でも、襲いませんでした。
私は天羽オーナーを信じています。」

私は真っ直ぐに天羽オーナーの方を見てそう言った。

「琴宮…
お前が俺のコンシェルジュだったら、良かったのに…な…」

「行きましょう…!」

天羽オーナーは静かに立ち上がった。

「場所は?」

「少し遠いです。
島月県の島月市(しまづきし)ですから、えーと、お車の手配を…」

「あぁ、頼んだ…」

私はリムジンを手配した。

後部座席に天羽オーナーと私が乗り込んだ。

天羽オーナーは車の中でずっと黙っていたが、その手は震えていた。

私は…
彼の手にそっと手を置いた…