次の日、私は一旦藤井沙織さんの事を置いておいて、相変わらずホテル・ヘブンリーフェザーに居た。

すぐに、仕事用の携帯に電話が鳴った。

画面を見ると、"ド変態天羽"と出ていた。

はいはい、すぐに出ますよ!っと。

「はい、コンシェルジュの琴宮です。」

私は至って平静を装って電話に出た。

『あ、今日さぁ、カラオケしたいんだけど、用意出来るよね?』

「え、用意と申されましても…
カラオケ室は当ホテルにはございませんし、オープンロイヤルスイートルームにもカラオケ機は…」

私は戸惑う。

『俺のポケットマネーから出すから、すぐオープンロイヤルスイートに手配してくれ。』

天羽オーナーは言う。

「か、かしこまりました!」

やっと、コンシェルジュらしい要望が来たので、私は張り切った。
どうしようか…?
多分天羽オーナーの言うカラオケは、業務用カラオケ機の事だ。
普通の家電量販店には売ってないだろう。

カラオケ店に電話してみるか。

私は付近のカラオケ店にかけまくった。

1店舗、中古のカラオケ機を譲ってくれるという店があり、すぐに、軽トラックを手配して運んでもらった。

専用のエレベーターに乗せて、オープンロイヤルスイートに運び、業者に接続してもらう。
ここまでで、100万ほどかかっているが、大丈夫なのか…?

「おっ、早いじゃん。」

「お褒めいただき光栄です。」

私は手を前に合わせて、コンシェルジュらしく言った。

「いくらかかった?」

「110万ですが…」

天羽オーナーは小切手を取り出した。
電子決済では無いのね。

「これで。」

「確かに、お受け取りしました。」

私は記入欄を素早くチェックして、胸ポケットに入れた。

「よし、そうと決まれば、今日はカラオケパーティーだぜ!」

カラオケパーティー?

「では、お友達をお呼びしますか?」

「は?
俺友達なんていないもん。」

うん、やっぱりネ!
その性格じゃネ!

じゃなくて…

「では、お一人でですか…?」

「お前が居るじゃん、琴宮。
優しいコンシェルジュの琴宮は、カラオケパーティーも付き合ってくれるよな?もちろん。」

「は、はぁ…」

「つまみになる物と酒をルームサービスで頼むか。
琴宮お前何が良い?」

そんなこんなで、2人でのカラオケパーティーが始まってしまった。

天羽オーナーははっきり言って歌が下手くそだった。
私もそんなに上手い方では無いのだ。

しかし、思ったよりも楽しかった。

採点でどっちが酷いかを競った。

「俺、52点!」

「あ、負けた、64点です!」

私は用心してカシスオレンジしか飲まなかったが、なんだか酔いが回るのが早い…
しまっ…た…
なにか…もら…れた…?