乃花の前にいる男の子は「そうか」と答えてから、なにも言わなくなる。
乃花は暗闇の中をキョロキョロと見回して、少し手を伸ばしながら口を開いた。
「ど、どこにいるの?」
「…ここにいる」
「キャァッ!」
ポン、と、とつぜん肩をたたかれた乃花は思わず悲鳴をあげてから、ドクドクと速い鼓動をきざむ胸を押さえる。
(び、びっくりした…)
それでも、肩に乗った手が離れていくと強い不安におそわれて、乃花は離れた手を探すように、両手を動かした。
指先にあたったやわらかい温もりを捕まえるように、ギュッと男の子の手をにぎりこむと、「お前さ」と男の子が言う。
「前、見えてないの?だったら、10秒目をつぶってみろ」
「え…?う、うん…」