こと、こと。こつん。なんてテンポ良い音を響かせて、お皿や器がテーブルに並んでいく。
桐生さんが流れるような手つきで作ったお料理たち。これぞ理想の日本の朝食と言わんばかりの完璧な献立と盛り付けに、今からお料理雑誌の撮影でも始まるのかと思ったほどだ。料理が趣味の域を超えている。これでは料理が本業の人みたいだ。
そして味も完璧に好みだったので、ぐわしっ! っと胃袋を掴まれてしまった。もう、彼のお料理から離れられないんじゃないかって恐怖すら覚えるくらいにおいしくて泣きそうになった。おいしすぎて泣きそうになるなんて経験も初めてだ。

「昨日までお仕事だったんだろう? 今日はおうちでゆっくりしようね」
「は、はいっ」
「あのテレビはネットに繋がってるから、あとで映画を探して一緒に観よう」

私がちょっとだけ夢に描いていた好きな人との休日の過ごし方の一つを提案されてどきっとした。この人は一体どこまで私の心臓を鷲掴みにするつもりだろう。
もし一緒に探して選んだ映画の趣味まで合ってしまったら、この先また、何度も何度も心臓を掴まれたら。きっと、私は――出し掛けた答えを無理やり抑え込んでから、彼の言葉に対して大きく頷いた。
これは気付かなくていい感情だ。一時の気の迷いだ。あまりにも突然で予想外のことが起きてしまって、まだ心が不安定だからだ。
レンタルダーリン桐生葵さんと私の期間限定夫婦生活は、こうして幕を開けたのだった。