最近、ルカの訓練が厳しさを増している気がする。

城の警備も厳重になっていて、リオともあまり会えていなかった。

「ルカ…リオに何かあった?」

僕は何となくルカに尋ねる。

ルカの機嫌は悪く、僕を見て、腕を引っ張られリオの部屋へと連れてこられた。

リオの右腕には手当ての痕がある。

「リオが…誰かに狙われている…」

ルカは何も答えず頷いていた。

「何故僕を呼ばなかった…何故知らせてくれなかった…」

僕は自分自身の不甲斐なさに激怒している。

「リオはイブキに知らせれば怒りに任せ暗殺しに行くから…と」

リオは理解していた…僕が怒りで行動することを…

「それで…調査の方はどうなってるの?」

深呼吸して僕は冷静になり、ルカに尋ねる。

「今はまだ、公務の帰りに狙われた…としか。」

犯人も狙われた理由もわかっていないらしい…

「じゃぁ、僕に調査をされて」

ルカは一瞬、迷うも首を振り、僕に「ダメだ」と答えた。

「イブキ一人では何をするか分からない…私も着いて行くなら良いが…」

ルカもリオに救えなかった事で自分を攻めていたらしい。

「わかった…で、いつ行く?」

「明日の明け方…ソッと抜け出す。」

「僕は夜の方が動きやすいけど…仕方ない、わかったよ。」

ルカと僕だけの秘密の任務を実行に移す。

見張りの部隊の位置の確認と交代の時間はルカが調べてくれている。

ルカは見張りの兵士に使いを出し、僕の部屋へと現れた。

「今回は私とイブキの二人だけで調査をする…暗殺は禁止、リオは命に別状はないけど、これからの事は慎重に行くたいらしい。 明け方、私がお前を迎えに行く、だからそれまでは大人しくしていろよ。」

「わかった、でも僕を裏切ったら暴れるからね。」

僕は今までに見せなかった目付きでルカに忠告をしておく。

この部屋の空気や僕の雰囲気が重く冷たくなる。

「わかっている、主である私がイブキを裏切るような真似はしないさ。 私にはお前も大事な家族みたいなものだからな。だから私を信じろ。」

ルカは優しい声で頭を撫でてくれた。

ホッとする、安心感…
ルカが側に、リオも側にいてくれたら僕はどんな奴にでも負けることはない。

「うん、ルカを信じるよ。」



明け方、僕たちはこっそりと城を抜け出しリオが襲われた場所を調査する。

リオを護衛していたもの達の話によると数人の暗殺者に襲われ、その中に一人だけ化け物のような奴がいたらしい。

一人は手傷を負わせ、一人は重症をおっているとの事だった。

僕とルカは二手に別れ、そのモノ達の痕跡を調べる。

痕跡と共に足取りも追って、ある街の貴族の屋敷に辿り着いた。

「ここは…」

どうやらルカには見覚えがあり、リオとの関係も知っているみたいだった。

「ルカ…何か知っているの?」

僕が尋ねてもルカは反応せず、ただただ屋敷を睨み、怒りに震えていた。

「ルカ…ルカっ」
僕が呼びかけても気づいてくれないルカに軽く平手打ちをする。

「ルカ…知っていることを話して…」

「イブキ…ごめん、ちょっと取り乱した。」

まだ少し様子のおかしいルカに僕は同じことを尋ねる。

「何か知っている…よね?」

ルカは僕を見つめ、渋々話し出す。



屋敷の持ち主はリオの叔父にあたる人らしく、リオに執着しているらしい。
リオを取り込めば、叔父にとって有利に働き、自分の立場は安泰なのだと言う。

つまり、リオを手に入れるか、消すことで叔父は更なる立場や権力を手に入れられる…とルカは教えてくれた。

「そんな事の為にリオを…」

「奴にとってはまだ序ノ口だろうよ。」

「つまり…これからもリオを狙う可能性があるという事だね。」

だからルカは怒りを抱えているというわけか…。

でも、「暗殺は禁止」とルカは言っていた。
「調査が優先」…という事は「証拠」が必要…ということだった。

「要は…奴を脅せる証拠が必要って事ね…なら僕に任せて貰おうかな? 気になる事もあるし…」

「何故だ、私だって調査くらい余裕で出来るぞ。」

「じゃぁ、今…ルカが奴に会ったら怒りを抑えられる?」

「そ、れは…」

ルカの様子を見る限り、多分怒りは抑えられないだろう。

「今回は依頼じゃ無いし、事を荒立てる訳にも行かないだろう? だから、ルカはここで少し待ってて…」

僕はルカと作戦を練り直す。

「僕が三十分経っても戻らなければ、ルカも動いて良い。 それまでは、ごめんね。」

僕はルカと話しながら、ルカの動きを封じる為素早く拘束する。

「おいっ、これはどういうことだ? イブキ…。」

ルカに施した拘束は三十分あれば解ける縛り方だ。
ただし、冷静なら…。

「だから、ごめんねって…」

僕は独りで屋敷に忍び込む。

ルカは見つからない場所で拘束してある。