修学旅行から帰った後、生徒会室で例の物を見せられ、ゲッと顔をひきつらせてしまった。


「おっしゃれー……いかにもカップルの持ち物って感じ。しかも耐熱性って寒くても使えちゃうじゃん。抜け目ない」

「全て褒める文脈で遣う言葉なのに表情が一致してないな。不器用なのか?」

「台詞と真逆の表情になってるってことはむしろ心が素直に表れてるんだよ、超器用じゃん」


 鹿島くんが買ってきたお土産は、宣言通り、ガラス製のペアグラスだ。私のがピンク、鹿島くんのがブルーのグラデーショで、ガラス製品独特の透明感が繊細さを際立たせている。耐熱性なので縁は厚いけれど、代わりに丈夫そうだ。


「くっ、これじゃ手を滑らせても絨毯の上を転がるのが関の山……!」

「偶然を装って壊そうとするな。なんのために付き合ってると思ってるんだ?」

「鹿島くんの趣味のため」

「別に、趣味で嫌がらせしてるわけじゃない」


 嫌がらせなのは相変わらず認める、と。キッ、と鹿島くんを睨み付けると「早速、コーヒーでも淹れてくれる?」と顎で使われた。でもコーヒーは私も飲みたいのでキッチンでコーヒーメーカーをセットする。第六西と違って、四、五杯分淹れることができるコーヒーメーカーだった。第六西でも秋口にコーヒーメーカーが現れたけど、一気に一人分しか淹れられない。松隆くんと月影くんしかコーヒーを飲まないし、あの二人もそんなにたくさん飲むわけじゃないから、一人分のもので十分なんだろう。

 コポコポというコーヒーメーカーの音を聞きながら、はぁ、と溜息を吐く。


「何が悲しくて放課後に鹿島くんと二人きりでコーヒーなんて飲まなきゃいけないのかなぁ」

「たかがコーヒーを淹れるだけで溜息を吐かれて溜息を吐きたいのはこっちなんだけどな」

「たかがとか言いつつお高いコーヒー豆なんでしょ、あー成金はやだやだ」

「味の分からない馬鹿に飲まれて嘆かれたいのはコーヒーのほうだと思うよ」


 舌打ちと共に鹿島くんを睨み付けるけど、どこ吹く風だ。なんなら、パソコンでの作業に忙しくて私になんて構ってられないとでも言いたげな雰囲気だ。