義理の妹を気遣ってるんです、という偽善を許さないための、布石。息を詰まらせた私を、彼方は狙い通りだと言わんばかりに眺め、そして、そこまでで目的は達成されたかのように、頭の後ろで手を組んでみせる。


「まー、俺が口出すことじゃないといえばそこまでだけど、さ」

「あの、そういえば、彼方に聞きたいことがあったんだけど」


 分かりきった答えを頭に浮かべるのが怖くて、慌てて声を出して、無理矢理考えられないようにした。


「彼方は……その、桐椰くんに、私のこと、話した?」

「……俺と亜季ちゃんが知り合いだってこと?」

「そうじゃなくて……、その、家の事情、とか……」


 彼方がそんな配慮のないことをするはずがない、とは思いつつも、どうしても訊かずにはいられなかった。不信を手向けられた彼方は、不快とよりは、どちらかといえば怪訝そうな顔をする。


「いや、しないけど。なんで?」

「……昨日、桐椰くんと、今日彼方と会うって話をしてたんだよね。彼方とは言ってないけど、中学の時に近所に住んでた年上の男子、って」

「嘘じゃないな」

「その人がどんな人かって話をしてるときに、私、桐椰くんに言ったの……お兄さんがいたらこんなだろうなって思う人だって」

「まぁ亜季ちゃんは俺の妹みたいなもんだしな!」

「桐椰くんは、今の私の家族構成を知ってるんだよ」


 ふざけた口調と表情だった彼方が、不意に真顔になった。そのせいか、まさに今、逼迫(ひっぱく)しているかのように、早口になってしまう。


「私に兄と妹がいるって知ってる……それなのに、お兄さんがいたらこんなだろうな、って話を……本当の兄はいないんだって話をスルーした」


 見ず知らずの男のことのほうが気になったから、そこに気付かなかっただけとも考えられる。でも、母親と私との関係を知っている桐椰くんが、家族関係の表現に敏感にならないはずがない。


「……亜季ちゃんが養子だって、誰かがアイツに言ったのか」


 しかも、桐椰くんは、気付いて気付かぬふりをしたわけじゃない。あの桐椰くんがそんなに器用に感情を消せるわけがない。お陰で口を滑らせてしまったことに気付かなかった。

 桐椰くんが、そこまで全く動揺しなかったということは、ずっと前から、桐椰くんは知っていたということだ。