「……言っとくけど、俺はお前の保護者にも兄代わりにもなんねーからな」
「えー、保護者じゃない桐椰くんなんてアイデンティティ崩壊もいいとこ──」
後ろ手に着替えの入った袋を揺らしていると、不意に抱きしめられた。
瞬間、心臓が飛び上がった。桐椰くんの体温と一緒に、妙に速い鼓動も聞こえてくる。背中に回った腕の力もびっくりするほど強くて、現に驚いて、いつの間にか荷物を落としてしまっていた。
「え……」
「……でも、彼氏でもねーからな」
ぎゅう、と腕に力が籠った。正直、痛いくらいだった。
「嫉妬する権利ねーし、そんなのするだけ気持ち悪いつか、何の立場でしてんだって話になるけど。……気になるんだから仕方ねーだろ」
はぁー、と耳元で溜息を吐かれて、ぞわっと身体が震える。それに加えて、頬に触れる髪はまだ少し濡れていて、お風呂上りなのも分かる。桐椰くんから伝わってくるものは、何もかも、リアルというか、妙に生々しい。
そのせいで手を背中に回す余裕なんてなくて、そうでなくても私にそんな権利なんてなくて、ただただ抱きしめられるがままになってしまった。
そろっと離れた腕に添えた手さえ、所在なくて。
「……じゃな」
エレベーターに乗った桐椰くんは、ぶすっと拗ねたような顔をしていた。エレベーター前に取り残された私は呆然と立ち尽くすしかない。月影くんの事件があって以来、桐椰くん、妙にアグレッシブになったな……。
「……相手は彼方だよって言えばよかったのかな……」
それはそれでややこしいことになるから言えないんだけど、自分を誤魔化すために適当に口にしてしまった。
まぁ、あそこまで人となりを話してしまえば、ほとんど彼方だと話してしまったようなものだけど……。床に落とした荷物を拾い上げ、溜息を吐き、部屋に戻ろうとして。
「──……あ、れ……」
桐椰くんに抱いていた違和感のひとつに気付き、エレベーターを振り返る。
「……なんで……」
もうエレベーターの扉は閉まっているのに、呆然と見つめ続けられずにはいられなかった。
「あーきーちゃーん」
「えー、保護者じゃない桐椰くんなんてアイデンティティ崩壊もいいとこ──」
後ろ手に着替えの入った袋を揺らしていると、不意に抱きしめられた。
瞬間、心臓が飛び上がった。桐椰くんの体温と一緒に、妙に速い鼓動も聞こえてくる。背中に回った腕の力もびっくりするほど強くて、現に驚いて、いつの間にか荷物を落としてしまっていた。
「え……」
「……でも、彼氏でもねーからな」
ぎゅう、と腕に力が籠った。正直、痛いくらいだった。
「嫉妬する権利ねーし、そんなのするだけ気持ち悪いつか、何の立場でしてんだって話になるけど。……気になるんだから仕方ねーだろ」
はぁー、と耳元で溜息を吐かれて、ぞわっと身体が震える。それに加えて、頬に触れる髪はまだ少し濡れていて、お風呂上りなのも分かる。桐椰くんから伝わってくるものは、何もかも、リアルというか、妙に生々しい。
そのせいで手を背中に回す余裕なんてなくて、そうでなくても私にそんな権利なんてなくて、ただただ抱きしめられるがままになってしまった。
そろっと離れた腕に添えた手さえ、所在なくて。
「……じゃな」
エレベーターに乗った桐椰くんは、ぶすっと拗ねたような顔をしていた。エレベーター前に取り残された私は呆然と立ち尽くすしかない。月影くんの事件があって以来、桐椰くん、妙にアグレッシブになったな……。
「……相手は彼方だよって言えばよかったのかな……」
それはそれでややこしいことになるから言えないんだけど、自分を誤魔化すために適当に口にしてしまった。
まぁ、あそこまで人となりを話してしまえば、ほとんど彼方だと話してしまったようなものだけど……。床に落とした荷物を拾い上げ、溜息を吐き、部屋に戻ろうとして。
「──……あ、れ……」
桐椰くんに抱いていた違和感のひとつに気付き、エレベーターを振り返る。
「……なんで……」
もうエレベーターの扉は閉まっているのに、呆然と見つめ続けられずにはいられなかった。
「あーきーちゃーん」