次の日、一限の講義室に行くと、明貴人はいつもどおりに授業に来ていた。今朝、私のスマホには何の連絡もなかったから、まだ寝てるのかもしれないと思ったのに。
いつもは明貴人の隣に座るけれど、今日は離れて座った。
授業が終わった後も、明貴人からの連絡はなかった。パソコンを片付ける明貴人のもとへ行くと、ようやく顔を上げ「ああ、昨日は悪かったな」と形だけのような謝罪をされた。次いで、眠そうに欠伸をかみ殺す。
「……昨日の」
「ああ、桜坂か?」
私が、その名前を見たと確信していたのだろう。いや、もっと前から、彼女からの連絡が来る度に、私がその名前を気にしていることを分かっていたのだろう。
そして私は、今日、明貴人がその名前をあまりにも──友人というにはあまりにも親しく呼ぶことに、嫉妬する。
「……誰?」
どうやら彼氏と別れたらしいけど、と嘯く前に。
「元カノ」
迷いのない返事をされて。
「別れて」
精一杯のプライドをもって、私も間髪入れずに返事をすれば。
「了解」
まるで事務手続のように、終わった。