それは、拒絶でも拒否でもなかった。しかも、ただの事務作業の一つのようで、まるで他人事みたいな口ぶりだった。
「それとも、俺の読みとは別に、君には俺と別れない理由がある?」
「ない……けど……」
「だろ?」
鹿島くんと付き合っておくことで鶴羽樹の動きが分かるというのなら付き合ったままでもいいけれど、きっとそんなことにはならない。
ふ、と鹿島くんの口の端から笑みが零れて、ドキリと心臓が跳ねた。ときめきとかそういった類の驚きではなく、初めて見る表情に対する純粋な驚きだ。
「もう分かってるだろうけど、俺の役割は、“俺の目的は松隆を陥れることにあって、樹が俺に協力してる”と君達に思わせることだった。君が俺と付き合ってた理由は、あくまで君は俺を黒幕だと思い込んでたからであって、黒幕は樹だと分かった今、その理由はなくなった。そうだろ?」
「……もう、なんて、そんなとっくに分かってたってほどの話じゃないよ」
過剰な評価を訂正したけれど、鹿島くんは「まあ時期なんてどうでもいいんだよ」と珍しく嫌味のひとつも言わない。
あまりにも唐突な鹿島くんの態度は、突然その役割を終えてしまったかのようだった。……いや、確かに、鹿島くんの役割が言ったとおりなら、真実が分かってしまった以上、鹿島くんは役割を終えている。
でも、どうしてその役割を終えるのが今なのか、釈然としなかった。
「大体……松隆くんのことが嫌いだからって、意味の分からない理由しか説明されなかったのに、私は鹿島くんが全部仕組んでるんだって思い込んで……」
「意味が分からないってほどじゃないんじゃないか。人にとっての“嫌い”なんてそんなもんだろ。……実際のところ、松隆のことは──もちろん好きじゃないし、なんならまあまあ気に食わないことが多いけど、だからってどうにか嵌めてやろうって恨みつらみはないな」
“どうでもいい”って感情がしっくりくるよ、と言っているとおり、本当に鹿島くんにとって松隆くんのことはどうでもいいんだろう。今までのどんな説明よりも納得のいく感情だ。
「……鶴羽樹がこんなことをしたのは、海咲さんが原因だよね」
「……俺は、樹が何をしようとしてるのか、本当に何も知らないから」
それこそ隠す必要のないことなのに、鹿島くんは、明らかに意図的に私の質問を無視した。
「それとも、俺の読みとは別に、君には俺と別れない理由がある?」
「ない……けど……」
「だろ?」
鹿島くんと付き合っておくことで鶴羽樹の動きが分かるというのなら付き合ったままでもいいけれど、きっとそんなことにはならない。
ふ、と鹿島くんの口の端から笑みが零れて、ドキリと心臓が跳ねた。ときめきとかそういった類の驚きではなく、初めて見る表情に対する純粋な驚きだ。
「もう分かってるだろうけど、俺の役割は、“俺の目的は松隆を陥れることにあって、樹が俺に協力してる”と君達に思わせることだった。君が俺と付き合ってた理由は、あくまで君は俺を黒幕だと思い込んでたからであって、黒幕は樹だと分かった今、その理由はなくなった。そうだろ?」
「……もう、なんて、そんなとっくに分かってたってほどの話じゃないよ」
過剰な評価を訂正したけれど、鹿島くんは「まあ時期なんてどうでもいいんだよ」と珍しく嫌味のひとつも言わない。
あまりにも唐突な鹿島くんの態度は、突然その役割を終えてしまったかのようだった。……いや、確かに、鹿島くんの役割が言ったとおりなら、真実が分かってしまった以上、鹿島くんは役割を終えている。
でも、どうしてその役割を終えるのが今なのか、釈然としなかった。
「大体……松隆くんのことが嫌いだからって、意味の分からない理由しか説明されなかったのに、私は鹿島くんが全部仕組んでるんだって思い込んで……」
「意味が分からないってほどじゃないんじゃないか。人にとっての“嫌い”なんてそんなもんだろ。……実際のところ、松隆のことは──もちろん好きじゃないし、なんならまあまあ気に食わないことが多いけど、だからってどうにか嵌めてやろうって恨みつらみはないな」
“どうでもいい”って感情がしっくりくるよ、と言っているとおり、本当に鹿島くんにとって松隆くんのことはどうでもいいんだろう。今までのどんな説明よりも納得のいく感情だ。
「……鶴羽樹がこんなことをしたのは、海咲さんが原因だよね」
「……俺は、樹が何をしようとしてるのか、本当に何も知らないから」
それこそ隠す必要のないことなのに、鹿島くんは、明らかに意図的に私の質問を無視した。