「分からなかったんだってば!」
「幕張のせいで手術に立ち会えなかったって、ちょっとこじつけすぎじゃね? いや、それを幕張のせいにしたい、ってなるのは分からなくもねぇけど、仮説として立てるにはちょっと根拠が足りない気がする」
むしろ、唯一そこは私でも納得した点だ。鶴羽が幕張匠のせいで好きな人にフラれた、という噂は雅も知っていた。でも海咲さんの存在を考えるなら、その噂は、もともとは『幕張匠のせいで好きな人を喪った』なんだろう。そうなると松隆くんの立てた仮説は的外れではない。
「まあそこはね、鶴羽に聞かないと何も分からないところさ。所詮、人の心なんて情報から裏付けただけで分かるほど簡単な仕組みにはなってないんだから」
今言えることは、と続けながら、松隆くんはマル秘の紙束をファイルに戻した。
「菊池が言ってたように、幕張がもういなくなってて、鶴羽が幕張に復讐するために躍起になって探してるとしたら、桜坂を人質に呼び寄せたいっていうのに筋は通る。俺達に溶け込ませたかったのは、俺と遼に何かしたいからだろうけど、そこも分からないところだね」
「じゃ、結局鶴羽の動きは読めねーのか」
「そうだね。俺達があんまりバラついておくのは得策じゃないかも、ってくらいかな。だから、桜坂もそろそろ鹿島と別れたほうがいいんじゃない?」
「んげ」
そしてここで私が標的に。じろりと桐椰くんからも睨まれた気がする。松隆くんには当然笑顔で攻撃されている。このリーダー、攻撃はいつも笑顔だな。
「それとこれとは……関係なくないですか?」
「鹿島と鶴羽は、今は関係なくても旧友だよね? 鹿島が鶴羽に協力してないってなんで言い切れるのかな? 鹿島の傍にいるのは危険だって分からない?」
当然、何も反論できない。ぐぬぬ、と唇を強く引き結んでいると「大体、そこまでして付き合ってるんだから、いい加減何か成果を得たんだよね?」と畳みかけられた。
「成果……ですか……」
「成果」
「そうですね……鹿島くんの機嫌はわりと分かるようになりましたね……」
「ふざけてるの?」
「だ、大事なことだよ! 鹿島くん、機嫌が悪いときは本音がぼろぼろ出るから! 機嫌が悪い時にここぞとばかりに尋問すれば、ね!」
「でも何の成果も出してないんだよね?」
「はい……すみません……」