「……はい」


 そのことに気が付いて、思わず喉が苦しくなって、上手く相槌を打てなかった。そんな私を、俯き加減の松隆くんが一瞬見て、やはり苦笑いした。


「……俺の初恋は別の人だったけれど、桜坂を好きな感情は、初恋かもしれないって思った」


 ……息が、止まってしまいそうだった。


「俺が、初恋だと思ってるのは、中学生のときのクラスメイトだったことははっきり言えるんだ。今思い返しても、当時の幼い感情だったから本当に恋愛感情だったのか疑問だなんて、そんなことは思わない」

「…………」

「ただ……まあ、その好きな子が遼に告白したのを知っちゃって、自分の中でストンと、ああそんなものか、って納得したというか諦めたというか、終わったというか。好きだったんだけどなあと思いながら、なんていうか、その程度だった」


 続く思いの丈を、冷静に聞いていられる気がしなくて、思わず、そろりと、自分の腕を抱えた。ぞわりと、背筋に奇妙な緊張感が走る。


「……でもね、桜坂を好きだと思ったときは、まあ、それなりになりふり構わなかったし、あわよくば手に入らないかなって何度も思った。口先でなんてことないってふりしてたし、もう気にしなくていいって言ったのもそれなりに本心だったし……ただ、まあ、桜坂が目の前にいるうちは、忘れないのかもなって思ってるくらい」


 ふ、と、松隆くんは、諦めたように笑った。


「初恋も遼にとられちゃったからかもしれないけど、桜坂のことは、それなりにしつこく好きだし、好きだろうなと思った。だから、矛盾したことを言ってるかもしれないけど、俺の初恋は別にあるんだけど、その時のことと比べると、桜坂への感情が本当の初恋なのかとも、思うよ」


 奇妙な緊張感が、心臓の鼓動に変わっている。なんだか、泣きそうだった。


「ただ、さっきも言ったけど、桜坂が目の前にいるうちは、好きなのかもしれないなってくらい。きっと高校を卒業して、新しいところに行けば、気まぐれな俺は他の誰かを好きになるのかもしれない。桜坂への“好き”はその程度だよ」


 その程度、なんかじゃ、ない。そんなの、その程度なんかじゃない。そこだけ切り取れば“その程度”に聞こえたって。