ふと思い出したように、松隆くんは顎に手を当てる。丁度チーズケーキとコーヒーが二人分運ばれてきたので、その視線が少しだけ動いた。


「兄弟構成が何か関係あるの?」

「鹿島に上の兄弟がいるなら、兄さんが知ってるとしても鹿島のお兄さんだけかもしれないなって思っただけだよ」

「それならいないんじゃないかな。鹿島くん、松隆くんのお兄さんとは会ったことある感じだったよ」

「それでも、次男だから表舞台に出さないって決まりはないからね。そこは鹿島の父親の方針次第だから、なんとも。それに、結局俺と鹿島の間に何もないことには変わらないよ」


 松隆くんはあまり興味なさそうにコーヒーに口をつけるけれど、どうにも釈然としない。鹿島くんが「松隆が嫌いだからだよ」と言ったときは、たったそれだけのことなのかと驚きはしたけれど、気が動転していたせいもあって、その答えが本当かどうかなんて考える余裕はなかった。ただ、今になってみれば、本当にそれだけの感情でそこまでできるはずがない、と疑念しか湧かない。


「……鹿島くん、実はサイコパスとか……」

「そう言うってことは、本当に俺への当てつけで鹿島と付き合ってるの? 随分陰湿なサイコパスだけど」

「や、そのこととは関係ないです……」


 下手に鹿島くんのことを話しているとボロが出そうだ。これ以上はやめておこう。気を取り直してチーズケーキをフォークで割ると、チーズがとろけて出てきた。きっとあっちのテーブルでは桐椰くんが喜んでるんだろうな。


「繋がりといえば、話は変わるんだけど」

「うん」

「父親が桜坂と会いたがってるんだよね」

「え……?」


 おいしいはずのチーズケーキが口内で味を失った気がした。


「会いたがってるって……」

「ほら、うちの父親と桜坂の父親が友達なんだって話があるだろ。この間会ったときに、折角だから食事でもどうだって言われてね」


 “会った”という言い方には違和感があったけれど、仕事が忙しいせいで実の父親とはいえあまり会う機会がないのだと思えば納得はいった。次いで脳裏に(よみがえ)るのは、お母さんのお墓参りをしたときの記憶だ。私を真っ直ぐに見つめる、穏やかな目。まるで何度も呼んでいるかのような“桜坂”という呼び方。お母さんと同級生だったという、あの告白。