近い! 現実にやられたぶん、松隆くんの中では十分に有り得る悪戯(いたずら)になってしまっているんだろう。そして実際、当たらずとも遠からずだ。


「ま、でもあえて鳥澤を召喚したってことは、一応それなりの理由はあったのかな?」

「そ、そうなんですよ、リーダー!」

「それなりの理由があって俺に水をかけると?」

「い、いや……水をかける案はボ──」

「ボ? なに? ボツ?」


 ……だめだ、口が滑った。松隆くんの前での私は無力。ああー、と頭を抱えてしまった私の横で、鳥澤くんが身動ぎした。次いで咳払いもした。


「……松隆、その……」

「なに」

「ごめんなさい! いや、そうじゃなくて……えっと……」


 だめだ……鳥澤くんは気を利かせてついてきてくれたけど、戦闘力はゼロ。桐椰くんか月影くんを連れてくるべきだった。二人の中でも、松隆くんの苛立ちを前にしてもどこ吹く風みたいな顔してる月影くんが一番の適役だった。なぜそれに気付かなかった、私……!

「その……俺、邪魔だと思うので……先に戻ってますね……」

「ちょっと!?」


 何も邪魔じゃないですよ? 鳥澤くんの攻撃力も防御力もゼロだとしても、私一人になったら松隆くんの怒りの矛先は私一人に向いちゃうじゃん! 即死しちゃうよ!

「ああ、うん。了解」

「了解じゃないよね!? じゃあ私も!」


 そさくさと逃げようとする鳥澤くんを追いかけて立ち上がる──が、部屋の外に出るには松隆くんの隣を通らざるを得ず、そして松隆くんが私の逃走を許すはずがなく、そうとなれば巻き込む相手は多いに越したことはなく──……。松隆くんが私の腕を掴み、私が鳥澤くんの腕を掴み、というなんとも間抜けな構図が出来上がり、室内には沈黙が落ちる。もちろん、私と違って、鳥澤くんは私の手など簡単に振り払えるわけだけれど、そこまでする勇気はないだろう。


「…………」

「……鳥澤くん」

「……はい。すいませんでした」


 ううん、鳥澤くんも生贄になってもらおうとしたのは私も悪いよね。

 結局、再び二人とも松隆くんに向き直る。唯一座る松隆くんには見上げられているのに、まるで見下ろされているような威圧感を感じながら、事の顛末(てんまつ)を説明することになる。


「……リーダー」

「なに」