「さて、桜坂様。こちらでいかがでしょうか」


 休日に突然カフェに呼び出され、突然に差し出されるクリアファイル。中にはホッチキス止めされた数枚のA4紙が入っている。表紙にはマル秘なんて書かれてるので、意外と深古都さんはノリがいいのかもしれない。やはり彼方の友達だ。


「こ、これはもしかして……」

「鶴羽樹の情報ですね」


 サッ、と自分の顔色が変わるのを感じた。鶴羽樹の情報。それが何を含意するのか全く見当もつかないけれど、それがあれば、少なくとも御三家のことは守れるはずだ。


「あ、ありがとうございま──」


 喉から手が出るほど欲しいとはこのこと──! と手を伸ばすものの、空振りした。おかしいぞ、と深古都さんを見上げると、その手にクリアファイルがある。


「では、こちらからの交換条件です。松隆総二郎様の誘惑をどうぞよろしくお願いします」

「え、そ、それは情報をくれてからとかではないんですか!?」

「代わりに、と申し上げましたよね?」

「そんなどっちともとれる条件じゃないですか……!」


 呻く私に、深古都さんは無表情のまま「一つのお勉強です。条件は明確にしておくこと」と淡々と告げた。


「え……っと、でも、あの、深古都さん、ご存知ですか? 松隆くんは彼方の弟の桐椰くんと違って多分ハニートラップにも引っかからないし……」

「なんですか、あの兄弟は共々阿呆ですか? それから桜坂様にハニートラップは期待しておりませんので、どうぞご安心ください」

「なんだか深古都さんも私の扱いを心得始めましたよね?」

「無碍には扱っておりませんでしょう」


 だからって雑に扱っていいことにはならないと思うんですけどね。


「一体全体何があったというんですか……深古都さんはあんなに誰にでも親切で丁寧で優しかったのに……」

「失礼しました。前回お会いした後、桜坂様のお話はあの阿呆から聞いたのですが、聞けば聞くほど、まるで桜坂様はあの阿呆の同類であるかのような錯覚を抱いてしまいまして」

「だ、だからって私のことを雑に扱っていい理由にはならなんじゃないですか!?」

「まあ、どうでもいいことですが」


 つい口に出てしまったのに、深古都さんはスルーを決め込んだだけだった。こんなに懇切丁寧で礼儀正しい人が私を雑に扱うなんて、私からは粗雑に扱ってくださいオーラでも出ているというのだろうか……。