お前の目は節穴か──。罵りたいというよりは、呆れた。彼方に対する“明るすぎる”という表現は、“チャラい”を最大限オブラートに包んだ言い方だ。分かる、確かに彼方の見た目はいかにもチャラいし中身もチャラい。だから彼氏にするべき相手じゃない、そこまでは分かる。でも鹿島くんを見て優しくて落ち着きがあって彼氏にしてて安心だ、なんて、何もわかってない。

 大体──鹿島くんの人柄なんてこの際どうでもいい──なんで、フィクションでよくあるみたいに、見抜いてくれないんだ。鹿島くんが私の彼氏なんかじゃないって。

 その事実が、彼と私の心的距離の隔たりの大きさを端的に表している気がした。


「……あと、学校の話も全然知らなかったから、友達もいるみたいで安心した。あの眼鏡の背が高い、優等生っぽい人」

「……月影くん」

「月影か……だからツッキー……なるほど」


 そんなどうでもいい中身のない相槌なんて要らない。


「亜季があんな風に大声で話すっていうか……ああやって、感情見せるの、初めて見た気がする」

「そうでもないでしょ」

「……そうだよ。笑った顔とか、驚いた顔くらいは、知ってたけど。あんな風に……なんていうか、心を許してるような名前の呼び方は、初めてだった、気がした」

「私は孝実に心を許してなかったとでもいいたいの」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……いや、ごめん、友達と、あんな感じなんだなって、それだけ」


 私の反応が(かんば)しくなかったどころかキレ気味だったせいか、彼はそれっきり黙った。なんなら料理が来るまで無言だった。運んできた店員さんは注文をとった人と同じで、「なんだこのテーブルのこの空気は……」と顔に書いてあった。

 そして、雑炊を食べ始めてから雑炊を選んだことを後悔した。熱くて急いで食べられない。これなら量が少ないからすぐに食べ終わって席を立てると思ってたのに。

 無言で食べる時間は、暫く続いた。熱くて中々食べられなかった挙句、気まずすぎてあまり喉を通らず、半ば飲み込むような形で食べていたというのに、無言のまま雑炊は半分まで食べてしまった。