「えーっと、松隆くん……もしかしてサボり?」

「まさか。ご覧の通り体調がすぐれないんだよ」

「体調の優れない人間が焼き菓子をつまみに優雅にコーヒーを飲み、読書に勤しむとは驚きだな」

「いつも通りの休日の引きこもりスタイルだもんな」


 二月だというのにTシャツにカーディガンスタイルの松隆くん、厚着は嫌いだとはいえとても病人には見えない。ただ、唯一の証拠として、頭には包帯が巻かれていた。


「つか、何があったんだよ。急に病院とかさすがにビビった」

「寝ぼけてベッドから落ちて脳震盪でも起こしたのかと思ったな」

「ふざけないでくれる? 夜道で急に背後から殴られるって普通に事件だよ」


 ぱたん、とつまらなさそうに松隆くんは本を閉じた。それはその通りだ。

 突然桐椰くんから連絡があり、松隆くんが病院へ運ばれたと言われた。焦った桐椰くんの声は、辛うじて私はなんともないのか心配して、それっきりどこの病院なのかも言わずに途絶えた。一体何があったのかと一人で狼狽えていると、夜中に月影くんから連絡があった。治療のために一時的に運ばれたが、入院するようなものではなかった、と。何があっても淡泊な事務連絡だ。


「夜、一人で歩いてたの? なんで?」

「予備校帰りだよ」


 桐椰くんも月影くんも驚いた顔をしなかったけど、何? 予備校?

「……美術予備校?」

「大学受験予備校だよ。喧嘩売ってる?」


 冷ややかな目を向けられてもなお私の頭は理解しない。予備校……? それって勉強するところだよね? 松隆くんが勉強? なに? いくら真面目になったっていってもそこまでなってることなんてある?

「でもお前、あんまり授業とってなくね?」

「うん、演習のほうが向いてるから。夜のほうが集中できるから、夕方だらだらしてつい残るんだよね」

「夕食の時間がずれないか?」

「それが嫌で最近お弁当二つ持ってる」

「家でやれよ」

「家だと集中できない」


 話についていけないの私だけ? なんで当たり前みたいにみんな勉強する松隆くんを受け容れてるの? っていうかこの感じだと桐椰くんも予備校に……? なにこの置き去り感、どこぞの添削塾勧誘漫画なの?