今日は、第何次としれた御三家事件が勃発する。

 そう予想したのは、今日が松隆くんの誕生日だからだ。

 桐椰くんの時でさえ机の上には貢物山積み、放課後は廊下に長蛇の列だったんだ。御三家一番人気の松隆くんがどうなるか、考えるのも恐ろしい。

 そんな予想は全く裏切られることはなく、松隆くんがいつも通りにゆるゆる歩いているのを窓の外に見つけた朝、早速三人の女子が駆け寄っていくのが見えた。何かを差し出す、松隆くんが手を横に振る、差し出す、松隆くんが手を横に振る、押し付けて逃げる、一拍置いて松隆くんがプレゼントを持て余すように手にとって眺める。そんな光景が繰り広げられた。白い目でそれを見ていると、また松隆くんに突進する女子四人がいる。なんでみんな団体で押しかけるのかな。複数で攻めたところで、松隆くんには勝てないと思うんだよね。

 朝はその程度で、松隆くんが始業ギリギリにやってくるということもあってか、暴動が起こることはなかった。その代わりに休み時間の度に廊下を駆ける女子が見えた。多分松隆くんのいる七組に急いでるんだろう。一時間目が終わった後に野次馬根性で見に行ったけれど、正直人だかりで松隆くんは見えなかった。あの似非王子様のことだからどうせきらきらの笑顔を張り付けて対応してるんだろうけど。

 一度見に行くとそれ以上の興味が湧かなかったので教室にいたのだけれど、代わりに昼休みになると月影くんが四組の廊下までやってきた。呼ばれたので揃って近寄ると、紙袋を差し出される。


「総の誕生日プレゼントだ。買っておいた。渡しておけ」

「いつも以上に要件だけの台詞ですね。何にしたの?」


 元旦に桐椰くんと話はしていたものの、あんなことがあったせいか、どこかの週末で松隆くんの誕生日プレゼントを買うという予定は頓挫(とんざ)した。なんか桐椰くんとはいつもこんな感じだな。


「コーヒーと焼き菓子だな。総には下手に物を渡せないから消費物になりがちだ」

「うんうん、そんな話、桐椰くんともしたよ。でも消費物も高級品だね……」


 紙袋に書かれた銘柄と箱のサイズから、デパートのショーケース内に陳列された商品の値段を弾きだしてしまいそうになる自分が庶民で哀しい。三人で割れば大した額ではないけど、高校生が友達の誕生日に適当に買うものなのか……? 知り合いの家を訪ねるときの簡単な手土産でも十分なレベルな気がするけど……。