「つか、聞いたときはそれどころじゃなかったし……いや、それどころなんて言ったらなんか語弊があるんだけど、なんていうか、別にお前への態度とか感情が変わるようなことじゃねーし……」
今度は私が反応に困る番だ。桐椰くんのことだから、そんなことを至極当然のように言えるのは分かるけど、いざ言われると反って居心地が悪い。
「……そう」
「……でも、他人に知られて気分がいいもんじゃねーし。お前が知らないところで勝手に知ってるのは悪かったなって、思ってたんだけど、わざわざ報告すんのも違うなってなって、言ってなかった」
ごめん、とまた言われて、更に困ってしまった。
あれ、私、何を知りたかったんだっけ。何がしたかったんだっけ。何を言いたかったんだっけ。桐椰くんに何かを期待してたのだろうか。いっそドン引きしてほしいくらい思ってたのかな。逆に、同情する桐椰くんに逆切れくらいしたかったのかな。
何も言葉にすることができず、再び沈黙が落ちた。
そもそも、桐椰くんってどこまで知ったんだろう。養子ってことだけ? 優実から聞いたなら、お父さんの不倫相手がお母さんで、私がその子ってことまで聞いたのかな。優実はそんなのどうでもいいっていつも言ってたけど、話しちゃったのかな。じゃあ孝実との関係までは知らないのかな。私の旧姓は知ってるのかな。幕張匠だってことまでバレてるのかな。そういえば、鹿島くんが言ってた、松隆くんのお父さんと私のお父さんとの間にあった話は、桐椰くんは知ってるのかな――。
何を喋ればぼろを出さずに済むのか、そもそももう全て出し切った後なのか、分からずにずっと黙っていると、沈黙に対する互いの気まずさが沸点に達しようとする。そして、弾ける直前、桐椰くんが立ち上がる音で沈黙が破られた。
「んじゃ、用事済んだし、帰る」
「え、用事って……」
「お前のご飯作りに来ただけだから」
「出張家政婦サービス……」
「言っとくけど高ぇぞ」
「あ、材料費」
「別にいい、うちから持ってきたものもあるから」
桐椰くんが本当に帰る準備をし始めるので、私はおろおろとテーブルの前で間抜けに慌てふためく。でも洗い物まで完璧にこなしてしまった桐椰くんの支度は早い。
「じゃあな。よいお年を」
「え、いや、うん、よいお年をなんだけどね、桐椰くん」
今度は私が反応に困る番だ。桐椰くんのことだから、そんなことを至極当然のように言えるのは分かるけど、いざ言われると反って居心地が悪い。
「……そう」
「……でも、他人に知られて気分がいいもんじゃねーし。お前が知らないところで勝手に知ってるのは悪かったなって、思ってたんだけど、わざわざ報告すんのも違うなってなって、言ってなかった」
ごめん、とまた言われて、更に困ってしまった。
あれ、私、何を知りたかったんだっけ。何がしたかったんだっけ。何を言いたかったんだっけ。桐椰くんに何かを期待してたのだろうか。いっそドン引きしてほしいくらい思ってたのかな。逆に、同情する桐椰くんに逆切れくらいしたかったのかな。
何も言葉にすることができず、再び沈黙が落ちた。
そもそも、桐椰くんってどこまで知ったんだろう。養子ってことだけ? 優実から聞いたなら、お父さんの不倫相手がお母さんで、私がその子ってことまで聞いたのかな。優実はそんなのどうでもいいっていつも言ってたけど、話しちゃったのかな。じゃあ孝実との関係までは知らないのかな。私の旧姓は知ってるのかな。幕張匠だってことまでバレてるのかな。そういえば、鹿島くんが言ってた、松隆くんのお父さんと私のお父さんとの間にあった話は、桐椰くんは知ってるのかな――。
何を喋ればぼろを出さずに済むのか、そもそももう全て出し切った後なのか、分からずにずっと黙っていると、沈黙に対する互いの気まずさが沸点に達しようとする。そして、弾ける直前、桐椰くんが立ち上がる音で沈黙が破られた。
「んじゃ、用事済んだし、帰る」
「え、用事って……」
「お前のご飯作りに来ただけだから」
「出張家政婦サービス……」
「言っとくけど高ぇぞ」
「あ、材料費」
「別にいい、うちから持ってきたものもあるから」
桐椰くんが本当に帰る準備をし始めるので、私はおろおろとテーブルの前で間抜けに慌てふためく。でも洗い物まで完璧にこなしてしまった桐椰くんの支度は早い。
「じゃあな。よいお年を」
「え、いや、うん、よいお年をなんだけどね、桐椰くん」